『アナーキズム』

忙しさにかまけて三カ月以上も放置してしまつた。なかなか時間が取れないので、まとまりのない讀書メモのやうなものを少しづつ書くことにしたい。浅羽通明『アナーキズム――名著でたどる日本思想入門』(ちくま新書、2004年)情報量豐かな本だが、アナキズム…

自由の實現

トム・パーマー(Tom G.Palmer)は米國の自由主義的シンクタンクとして知られるケイトー研究所(Cato Institute)で主任研究員を務め、アトラス經濟研究財團(Atlas Economic Research Foundation) でシンクタンクの世界的ネットワークを構築する仕事にも携…

ハイパーインフレはあり得ないか――『日本が破綻しない10の根拠』を斬る(3)

最後はもう一度ハイパーインフレについてだ。 【07】年率1万3000%の物価上昇など、起こしたくても起こせない! 政府が大量のカネを刷る一方で、人々がそのカネを信用できなくなり、カネを受け取つたら即坐に店に走り、先を爭つて物と引き換へる(物を買ふ)…

國家は死なず、めでたしめでたし――『日本が破綻しない10の根拠』を斬る(2)

【03】投資家たちは自らの判断で、日本国債を大量購入している 投資家が自分の判斷で國債を買つてゐることは事實だ。しかしそれを正しいと思ひ、「喜んで国債を買う投資家たちこそ正常」とほめたたへるのなら、別の箇所で「リスクを採らない銀行、企業貸付を…

「政府の資産」は誰の資産か――『日本が破綻しない10の根拠』を斬る(1)

別冊宝島『図解でわかる! 日本が破綻しない10の根拠』(宝島社)を買つて來た。表紙に「日本は強い!」「これを読んで日本に自信を持とう!」「日本は必ず復活する!」と力強い文句が竝んでゐる。もし私の性格がもつと素直なら、これだけで將來への不安が吹…

市場の驚異を語れ

第一次世界大戰で若くして命を落とした兵士の一人に、アメリカの詩人、ジョイス・キルマーがゐる。もつともよく知られるのは「木」("Trees")といふ短い作品だ。 思ふに、木ほど美しい詩に めぐりあふことは決してあるまい 大地のゆたかな乳房に 餓ゑた口を…

無縁社会は惡くない――島田裕巳『人はひとりで死ぬ』

地域や家族の人間關係が稀薄になり、孤獨死が増える「無縁社會」が社會問題として取りざたされてゐる。菅直人總理は對策を檢討するため、反貧困ネットワーク事務局長の湯浅誠内閣府參與ら有識者による特命チームを設置するやう指示したといふ。しかし無縁社…

トムは真夜中の庭で

「そのときから、ここへきて住んでるの?」 「そのときからじゃない。バーディとわたしは、低地地方でくらしていて、たいへんしあわせでね。子どもは、男の子がふたり生まれた。ふたりとも大戦――いまでは第一次世界大戦といっているようだが、あの戦争で戦死…

國家、このあやふやなるもの――『国マニア』

私たちは普段、國家を非常に鞏固な存在と考へてゐる。國家ほど確かなものはないと信じて生きてゐる。だがじつのところ、國家ほどあやふやでいい加減なものはない。吉田一郎『国マニア』(ちくま文庫、2010年)は、國家のさうしたあやふやさ、よく言へば融通…

「デフレは惡い」のウソ(5) 大恐慌その3=金本位制惡玉論を斬る

最も憂慮すべきは、金本位制への的外れな非難だ。普通の讀者は金本位制のことなどほとんど知らないから、高橋洋一氏や勝間和代氏のやうな有名人が惡玉論を書き立てると、素直に信じてしまふ恐れが強い。濡れ衣を着せられた「野蠻の遺物」のために辯じて、締…

「デフレは惡い」のウソ(4) 大恐慌その2=金融危機の本當の理由

銀行の經營危機も、株暴落や不況と同じくFedが金融緩和で野放圖な融資を促したツケとして、引き起こされたものだ。金融緩和が原因で起こつた危機への對策として、またぞろ市場にマネーをぶち込むのは、アル中患者に酒を飮ませるやうなものだ。吾妻ひでおがマ…

「デフレは惡い」のウソ(3) 大恐慌その1=株式ブームはなぜ起こつたか

1929年のニューヨーク株暴落をきつかけとした大恐慌の原因について、私自身の考へは前囘少し觸れたが、あらためて考へてみよう。何が大恐慌の原因だつたのか。高橋氏はかう書いてゐる。 こうした史上まれな不況が、アメリカにおける貨幣的要因によって引き起…

「デフレは惡い」のウソ(2)

高橋洋一氏は『日本経済のウソ』第2章で、歴史的なデフレ局面を取り上げ、名目經濟成長率がプラスなら「良いデフレ」、マイナスなら「悪いデフレ」と評價してゐる。名目成長率がプラスなら肯定的に評價するといふ前提にも同意しかねるが、それより問題なのは…

「デフレは惡い」のウソ(1)

私は高橋洋一氏のファンだ。行政の中樞で働いた經驗がある人だけに、その官僚・政治家批判はじつに具體的で勉強になる。税金の無駄遣ひや天下りのデタラメを指彈する文章を讀んでゐると、主張そのものの徹底ぶりもさることながら、古巣への遠慮もあるだらう…

チャルマーズ・ジョンソン死去

チャルマーズ・ジョンソン死去。『通産省と日本の奇跡』は感心しないが、リバタリアンが戰爭と平和を考へる際の必讀書をいくつか著してゐる。アメリカ帝国への報復作者: チャルマーズジョンソン,Chalmers Johnson,鈴木主税出版社/メーカー: 集英社発売日: 20…

社會主義はなぜ不可能か――『まんがで読破 共産党宣言』と『ヒューマン・アクション』 Why Is Socialism Impossible?

ここ二三年、文學や哲學の古典をマンガ化した文庫本のシリーズが相次いで出版されてゐる。よいことだ。原著の内容をすべてマンガで、それもわづかな頁數で再現するのは無理だらうが、マンガ家が勝れた手腕の持ち主なら、原著のエッセンスを傳へることはでき…

課税は盜みである――「税金鳥」と『自由の倫理学』 Taxation Is Robbery

前囘の記事で紹介した『ドラえもん』第9卷にはもう一つ、政治經濟の本質を衝いた話が載つてゐる。「税金鳥」(ぜいきんとり)だ。藤子・F・不二雄大全集 ドラえもん 9クチコミを見る小遣ひをたんまり貰へるスネ夫が羨ましいのび太、「不公平だ!!」と憤り、ド…

「機會の平等」のウソ――「ハリスン・バージロン」と「ビョードーばくだん」 The Fallacy of 'Equal Opportunity'

ソ聯が崩潰し、社會主義の限界が明らかになつて以來、「結果の平等」を理想として掲げる智識人はさすがにほとんどいなくなつた(まだ一部にゐるやうだが)。だがそれに代はつて「機會の平等」の徹底を求める聲が強まつてゐる。たとへば、經濟的に豐かな家庭…

私はやはり私のもの

ハーヴァード大の政治哲學教授、マイケル・サンデルの講義がNHK教育テレビで放送され話題になつてゐるが、講義に基づく本が出てゐたので買つて來た。『これからの「正義」の話をしよう』(鬼澤忍譯、早川書房)。サンデルと言へばリバタリアンに批判的な…

くたばれGDPフェチ

先日の記事で述べたやうに、財政政策で國が豐かになることはない。政府が國民から富を取り上げ、それを他の國民にばらまいても、國民全體が豐かになることはない。ところがエコノミストや評論家の中には、財政政策で國が豐かになると力説する人が少なくない…

財産權? それが何か?

個人の財産權は侵すことのできない神聖な權利だと考へるリバタリアンの立場から見ると、政府が課税やインフレ(通貨量の膨脹)によつて個人の財産を奪ふことは、「民間」の強盜と同じく、犯罪行爲に外ならない。だが殘念ながら、その道理を認め、國民の財産…

他人の金で生きる自由?

橘玲『貧乏はお金持ち』(講談社、2009年)の「まえがき」(ウェブで公開されてゐる)はかう始まる。 この本のコンセプトは単純だ。/自由に生きることは素晴らしい。(3頁、強調は原文) たしかに自由に生きることは素晴らしい。だがその自由をどう守るのか…

保護主義の罠

『自由貿易の罠』(青土社、2009年)の著者、中野剛志は經濟産業省職員だが、政府による貿易の制限、すなはち保護主義の強化を主張した同書の「あとがき」でかう強調してゐる。 筆者は、自分が大学教授であろうと、新聞記者であろうと、あるいはダンサーであ…

金本位制を擁護する

クイズ。1929年に起きた世界恐慌の原因は次のどれ? ものすごいインフレが起こった ニューヨークである日突然株が大暴落した 金本位制に復帰した 勝間和代・宮崎哲弥・飯田泰之『日本経済復活 一番かんたんな方法』(光文社新書、2010年、168-169頁)による…

山よ、國家主義と鬪へ

反市場の風潮と鬪ふべくこのブログを始めたわけだが、早くも最強の敵が現れた。なにしろ相手は人間ではない。山だ。いや、相撲取りではない。本物の山だ。日本中の山が私のやうな市場原理主義者を目の敵にして鬪ひを挑んでゐるらしいのだ。 いくら騎士を名乘…

デフレ地獄は實在するか

主流派經濟學者らによると、我々が生きてゐるこの世界に、恐ろしい地獄が時折出現する。しかもここ日本ではその地獄がまさに出現しつつあるといふ。その地獄とはデフレ地獄。人々がお金ばかり欲しがつてモノを欲しがらなくなり、モノの値段が全體的に下がり…

供給力過剩のまぼろし

日本經濟が立ち直るにはまづデフレ(物價の持續的な下落)を止めなければいけない。そのためには日銀がとにかくお札を刷りまくり、世の中にお金を大量に供給すればよい。だがいまいましいことに、無智な素人や藝能人は「インフレが怖い」などと口走る。評論…

デフレ目標を導入せよ

デフレ(物價の持續的下落)はなぜ惡いのか。經濟評論家、勝間和代によれば「デフレは百害あつて一利なし」。まるで發ガン物質みたいな言はれやうだが、實際、勝間氏は著書『自分をデフレ化しない方法』(文春新書、2010年)でデフレをずばり次のやうに呼ん…

ベーシックインカムのユートピア

ベーシックインカムとは、政府がすべての國民に對し最低限の生活に必要な現金を無條件で支給する制度。從來の社會保障制度と異なり、世帶でなく個人に對して支拂はれることや、所得水準にかかはらず支拂はれることなどが特徴だ。金持ちも支給を受けることに…