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デフレ目標を導入せよ

デフレ(物價の持續的下落)はなぜ惡いのか。經濟評論家、勝間和代によれば「デフレは百害あつて一利なし」。まるで發ガン物質みたいな言はれやうだが、實際、勝間氏は著書『自分をデフレ化しない方法』(文春新書、2010年)でデフレをずばり次のやうに呼んでゐる。

自分をデフレ化しない方法 (文春新書)

今、日本経済を病気にたとえると、ガン(デフレ)に罹っていると思ってください。(86頁、強調は原文)

はつきりとガン、それも太字で……。まつたくひどい言はれやうだ。しかしデフレはなぜガンなのか。勝間氏によれば、根本的な理由は次のやうなものらしい。

人々はこれから先も値段が下がり続けるだろうとの予測のもと、モノを買うのを控えるため、モノは売れなくなります。(中略)モノが売れないので企業は儲からず、当然景気も悪くなります。(91頁)

デフレだと景氣が惡くなる、すなはち不況になるといふのだ。たしかに最近の日本ではデフレと不況が同時に起こつてゐるから、説得力があるやうに思へる。だがそれだけで結論を下すのは早計だらう。少なくとも他の國、他の時代ではどうだつたかを知る必要がある。

幸ひ、米ミネアポリス聯銀のエコノミスト、アンドルー・アトキソンとパトリック・キホーが世界のデフレと不況の關係について調査を行ひ、結果を論文(2004年)にまとめてゐる。對象は米英獨佛日など十七カ國。各國について少なくとも百年間のデータを收集した。そのうへでそれぞれを五年間づつの期間に分割し、調べた。なほデフレと不況の定義はそれぞれ「平均インフレ率がマイナス」「平均實質生産伸び率がマイナス」とした。

分析の結果、1930年代のアメリカ大恐慌ではデフレと不況の間に緩やかな關聯らしきものが見られたが、その他については、デフレ期の90%近くが不況でなかつた。全體への結論として、二人の著者はかう述べてゐる。

幅廣い歴史的調査でわかつたのは、デフレ期は不況より好況の場合が多く、不況期はデフレよりインフレの場合が多いことだ。全般的に言へば、データを見る限り、デフレと不況の間にはほとんど何の關係もない。(強調は引用者)

つまり勝間氏らの「デフレだと不況になる」との主張にはほとんど根據がないといふことだ。それどころか「デフレ期は不況より好況の場合が多く、不況期はデフレよりインフレの場合が多い」といふのだから、勝間氏が菅直人副總理にやるべきプレゼンテーションは「デフレを止めよう」でなく、むしろ「デフレを續けよう」だつたのではないか。

オーストリア學派エコノミスト、ジョセフ・サレルノは上記の調査を紹介しつつコメントしてゐる。「これで、インフレ目標政策を主張する多くの主流派經濟學者がデフレ目標政策に方針轉換してくれるかもしれない」。日銀は日本經濟復活へデフレターゲット導入を!

理屈で考へても、デフレは經濟の繁榮にとつて自然な現象のはずだ。世の中で作り出される物の量が増えれば増えるほど、物價は下がるからだ。實際、イギリスが産業革命を原動力に世界一の經濟大國に成長した十九世紀、百年間を通して見ると、同國の物價は下落してゐる。もちろん、物價が數年間續けて下がつた時期など何度もある。

デフレは世の中に出囘るお金の量が減ることによつても起こる。現在の日本はこの状況だが、やはりデフレの效果は惡くない。物價の下落で企業は事業活動のコストが下がり、利益が出やすくなるからだ。利益が出れば新たに投資をしたり人を雇つたりする餘裕と意欲が生まれる。
デフレの神話――リバタリアンの書評集 2010-12〈経済編〉 (自由叢書)
デフレは不況を引き起こさないどころか、コスト安によつて不況を癒す。金融緩和や勞働規制で製品價格や賃金の下落を妨げるのは、短期的には一部の企業經營者や勞働者を喜ばせるかもしれないが、コスト高をいつまでも引きずることになり、長期的には經濟恢復にむしろ障碍だ。經濟問題に對する最善の解は常にただ一つ、「市場に任せよ」。それができないと言ふのなら、やはりこれしかない。今すぐデフレ目標導入を!

【參考資料】

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