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供給力過剩のまぼろし

日本經濟が立ち直るにはまづデフレ(物價の持續的な下落)を止めなければいけない。そのためには日銀がとにかくお札を刷りまくり、世の中にお金を大量に供給すればよい。

だがいまいましいことに、無智な素人や藝能人は「インフレが怖い」などと口走る。評論家、宮崎哲弥がそんないまいましい經驗について次のやうに語つてゐる。

日本経済復活 一番かんたんな方法 (光文社新書 443)

とにかく、デフレギャップが35兆円から45兆円もあるとされるわけですから、何らかの方法で需要を刺激すれば効くというのは火をみるより明らかです。なのに、「需要を喚起するような政策を採ると、ハイパーインフレーションを引き起こしてしまう」という反論がすぐに返ってくる。凡百のテレビコメンテーターならまだしも、例えば大竹まことさんのような聡明で知的なタレントさんですら、麻生政権の15兆円の追加経済対策を論議した際に「インフレが心配だ」という懸念を表明された。私は「ああ、これはいかん」と痛感しましたね。(勝間和代宮崎哲弥飯田泰之日本経済復活 一番かんたんな方法光文社新書、2010年、76頁。強調は引用者、以下同)

まつたく何をほざいてゐるんだ、大竹! 青山學院大學經營學部中退の分際で! たしかに、デフレに逆戻りしないためには年2%程度の「健全な」インフレまで持つていく必要はあるが、それを大きく上囘る高率のインフレにはさう簡單にならないし、ましてや第一次世界大戰後のドイツみたいなハイパーインフレになどなるわけがない。なぜかつて? 宮崎氏の發言にもあるやうに、「デフレギャップが35兆円から45兆円もある」からだよ。デフレギャップの意味がわからない? 經濟學者、飯田泰之の解説を聞くがいい。

機械設備と労働の量、そして技術によって生産活動は行われます。ここで仮に、今日本に存在する機械設備が無理なく無駄なく利用され、働く気のある労働者が完全に雇われているという状況を考えましょう。この時に達成されるGDPの水準が潜在GDPです。そして潜在GDPの伸び率が潜在成長率というわけです。/しかし、現実の経済がいつでも潜在GDPを達成できるわけではない。失業や設備の遊休が生じている状況では実際のGDPは潜在GDPを下回ることになる。(中略)デフレギャップの状態です。現在の日本には少なく見積もっても7%、35兆円のデフレギャップがある。(同83-84頁)

飯田氏は77頁でかうも言つてゐる。「高率のインフレが起きるのは、基本的に供給能力不足の時です」「でも、今の日本経済で供給能力がなくて困っているかといえば、そんなことはない」。その通り。それどころか、失業や設備の遊休で35兆圓分もの供給能力が餘つてゐる。政策による刺戟でモノへの需要が高まつても、モノを供給する餘裕が十分あるから、ちつとやそつとで物價が大幅に上昇する心配はないんだ。わかつたか?

何? その理屈はちよつとをかしい? 生意氣な。どこがをかしいんだ。

供給能力が餘つてゐるといつても、それはすべての設備を合計したときの話でせう、だと? 當たり前だ、それがマクロ經濟學といふものだ。でも業界ごとに見れば、供給能力が餘つてゐる業界もあれば、足りない業界もあるはずだ? まあさうだな。それなら供給能力の足りない業界で需要が高まれば、その業界の製品はすぐに値上がりしてしまふんぢやないですか? そんな業界が多ければ、物價全體も意外に早く上昇しちやふんぢやないですか、だと? うむむ。

失業にしても同じで、合計すれば人手は餘つてゐるかもしれないけれど、技能ごとに見れば、不足してゐる働き手もゐるでせう。モノを作るためには、職のない人を雇ひ入れるだけぢやなくて、缺かせない技能を持つ人、例へば技術者とかマーケティングの專門家とか、ブルーカラーでも特定の作業に熟達した人とか、さういつたすでに職のある稀少な人材を、昇給させたり、場合によつてはライバル企業から引き拔いたりして、高い賃金で確保しなければならない。だから失業があるから賃金は上昇しないといふ理屈はをかしい、だと? うむむむ。

そもそも、供給能力が餘つてゐる限りモノの値段は上がらないといふ想定そのものが非現實的? どういふことだ。だつて、企業は先を讀んで行動するものでせう。いづれ供給が追ひつかなくなると思つたら、必要なモノを手に入れるため、前倒しで買値を引き上げるはず、だと? うむむむむ。

なんだか頭が混亂してきた。をかしいな、デフレギャップはジョン・メイナード・ケインズが礎を築いた主流派マクロ經濟學の基本なんだが……。ケインズとかいふ人の思想が根本的に間違つてゐるんぢやないですかつて? そんなことあるわけないだらう! それにしても大竹君、宮崎哲弥も言つてゐたけど、意外に知的なんだね。え? 大竹ぢやなくてヘンリー・ハズリット? 誰それ?

日経BPクラシックス 世界一シンプルな経済学

【參考資料】

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