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大恐慌の眞實――通説を疑ふ(1)

1930年代に廣がつた米國の經濟危機、すなはち大恐慌は、一般的な見解によれば、市場經濟の「行き過ぎ」、資本主義の「暴走」が原因だつたとされる。そして大恐慌の「反省」を踏まへ、政府は經濟活動を自由放任に委ねるのでなく、適切に規制して危機の發生を防ぐべきだし、不幸にして危機が起こつてしまつた場合は財政政策や金融政策によつて積極的に介入し、國民生活を救ふべきだとされてきた。

かうした通説は、2008年以降の世界的金融危機をきつかけに、マスメディアの報道や一般向けの出版物などを通じ、一段と人々の間に滲透したやうに思はれる。金融危機の發生後、しばしば登場したのは「大恐慌の反省を忘れ、資本主義の暴走を許したことが金融危機の原因」といふ論調だ。例へば池上彰14歳からの世界恐慌入門。』(マガジンハウス、2009年)にその典型的記述がある。

45分でわかる!14歳からの世界恐慌入門。 1929年を知れば、2009年が見えてくる! (MAGAZINE HOUSE 45 MINUTES SERIES)

大恐慌の後)野放図な自由競争はやめようという、さまざまな仕組みができていったことによって、大規模な恐慌は起きないようになっていました。(中略)ところが、1991年以降、ソ連が崩壊し、東欧の社会主義諸国も雪崩を打って資本主義経済をめざすようになりました。資本主義諸国は、「資本主義が勝った」と考え、かつての反省を忘れてしまいました。(80頁)

この後、「反省忘れて新自由主義」という小見出しとともに、次のやうな記述が續く。

その結果が、いわゆる新自由主義の採用です。資本主義経済の中の、いわば社会主義的な要素を取り除き、さまざまな恐慌予防の仕組みも取り払われてしまったことによって、古典的な資本主義の大恐慌がまた起きてしまったと私は思っています。(同)

まさに池上氏がかつて出演してゐたNHK「週刊こどもニュース」あたりで出てきさうな政府見解的な解説だが、それはともかく、現在、大恐慌の「反省」を忘れてゐたことを各國政府が深く「反省」し、喜々として、いや失敬、危機意識をもつて、樣々な「社会主義的な要素」を盛り込んだ規制強化に乘り出してゐるのは事實だ。きつと世の中は良い方に向かつてゐるのだらう。

だが大恐慌は本當に資本主義が原因だつたのだらうか。そもそもなぜ、自由な、すなはち互ひの自發的な合意に基づく經濟活動が危機を招くのだらうか。ちよつと立ち止まつて考へてみると、さまざまな疑問がわく。 (續く)

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