「デフレは惡い」のウソ(4) 大恐慌その2=金融危機の本當の理由

銀行の經營危機も、株暴落や不況と同じくFedが金融緩和で野放圖な融資を促したツケとして、引き起こされたものだ。金融緩和が原因で起こつた危機への對策として、またぞろ市場にマネーをぶち込むのは、アル中患者に酒を飮ませるやうなものだ。吾妻ひでおがマンガ『失踪日記』で赤裸々に描いてゐるやうに、一時的に經濟といふ患者は「樂になる」かもしれないが、決して本質的な解決にならないし、少なくとも持續可能な繁榮に結びつくことはないだらう。

失踪日記

失踪日記

不況になると銀行がバタバタ潰れたり潰れさうになつたりするのは、政府・中央銀行による救濟をあてにして「部分準備」(預金の一部しか拂ひ戻しに備へて手元に置かず、殘りは貸出に囘してしまふこと)といふ、誰もがあたりまへと思つてゐるが、じつは本質的にきはめてリスクの高い商賣のやり方をしてゐるためだ。「システミックリスク」などといふもつともらしい專門用語は、税金による銀行救濟を正當化するための目くらましにすぎないのだが、殘念ながら高橋氏も本書(p.125)でこの言葉を無批判に使用してゐる。

そもそもFedが設立されたのは1913年だ。もしFedの金融緩和が不十分だつたのが大恐慌の原因なら、どうしてFedが存在すらしなかつた時代に大恐慌を上囘るやうな經濟危機が起こらなかつたのか。なぜむしろFedの設立後、大恐慌や1980年代のS&L(貯蓄貸附組合)危機、2000年代のサブプライム危機と大規模な金融危機が繰り返されるのか。Fedそのものが危機の原因だからといふのが自然な答へだらう。

Fedが無能で金融緩和をためらつたのが大恐慌の主因といふのはミルトン・フリードマンが唱へた説で、現在の學會で「共有された見解」となつてゐる。高橋氏もフリードマン説に立脚してゐるわけだが、金融危機に至る經緯を無視した近視眼的な見方と言はざるを得ない。フリードマンは偉大なリバタリアン經濟學者だが、すべてにおいて正しかつたわけではない。

大恐慌研究を專門とする經濟學者からFed議長となつたベン・バーナンキフリードマンの教へに忠實に從ひ、サブプライム危機後、前代未聞の巨額のマネーを市場にそそぎ込んだ。だがアメリカ經濟に好轉の氣配はない。ドルはどんどん下落してゐて、この先どうなるかは神のみぞ知るだ。

Libertarianism Japan Projectへの寄稿を一部修正)

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