國家は死なず、めでたしめでたし――『日本が破綻しない10の根拠』を斬る(2)

【03】投資家たちは自らの判断で、日本国債を大量購入している

投資家が自分の判斷で國債を買つてゐることは事實だ。しかしそれを正しいと思ひ、「喜んで国債を買う投資家たちこそ正常」とほめたたへるのなら、別の箇所で「リスクを採らない銀行、企業貸付をネグレクト!」(第5章)などと、銀行が企業融資より國債投資に資金を向けてゐることを非難するのは矛盾してゐる。

図解でわかる! 日本が破綻しない10の根拠 (別冊宝島) (別冊宝島 1722 ノンフィクション)

それより問題なのは、投資家が國債を買ひまくることにより國債相場にバブルが發生し、將來暴落しかねないリスクに無頓着なことだ。いやすでにバブルは發生してゐる可能性が高い。もちろんその背景は、民間企業に借り入れのニーズが乏しいにもかかはらず、日銀が金融緩和を續け、行き場のないマネーが大量發生してゐることだ。「ベストチョイス」などと浮かれてゐる場合ではない。

【05】政府を含む日本全体でみると、日本は世界一の対外債権国

外資産の内譯でもつとも多いのは證劵投資で、そのかなりの部分は外國の國債だ。つまり世界的な財政危機のなか、借金で首の囘らなくなつた國々が債務不履行(デフォルト)を宣言すれば、その瞬間に紙クズになる。そんなものを資産として大量に抱へてゐるのは、心配の種でこそあれ、安心の材料にはまつたくならない。

【06】ハイパーインフレになっても 国家は必ず大復活する!
【09】かつて破綻した国々では、その後経済が急回復している
【10】財政破綻した国さえ IMFの介入で危機を脱出している

これはひどい。第一次大戰後にすさまじいハイパーインフレを經驗したドイツについて、筆者らは次のやうにさりげなく記述してゐる。「一時はパン1個が1兆マルクとなるほど貨幣の価値が暴落したが、その後のデノミネーション(デノミ)によって収束へ。それに引き続き、第二次世界大戦までにドイツが国力を回復させたのは周知のとおりだ」(28頁)。ハイパーインフレにより、老後に備へコツコツ蓄へた貯金が吹き飛び、絶望して自殺した人々のことや、社會不安が高まりナチスの臺頭を招いたことなどは一切無視されてゐる。アルゼンチンでハイパーインフレの結果、中産階級が沒落して貧困が廣がり、職を求めてイタリアやスペインへ大量の移民が發生したことにもまつたく觸れてゐない。國民にどんな辛酸をなめさせようと、國家が存續すればそれでオーケーと筆者らが考へてゐるとしか思へない。

破綻した韓國の財政はIMF(國際通貨基金)の介入を受けた後、急速に改善し再建を果たした(34頁)と筆者らは強調するが、これを讀んだ誰もがかう思ふのではないだらうか。「ぢやあ最初からさうしろよ……」。いつそ日本は韓國の教訓から學び、今すぐ政府を解散し、IMFに統治してもらつたはうがいいかもしれない。

【08】他国から借金して赤字を垂れ流す、ギリシャは借金踏み倒し国家

ギリシャが經濟危機から脱出できないのは、通貨同盟の規制によりカネを好きなだけ刷ることができないからで、だからユーロを離脱すべきだと筆者らは言ふ。歐州聯合とか通貨同盟とかいつた社會主義的な制度は早く崩潰したはうがよいと思ふが、ギリシャがユーロから離脱しても、それでギリシャの經濟がよくなる保證はない。すでに觸れたやうに、筆者ら自身、韓國はIMFが乘り込んで金融引き締めや規制緩和をやらせてはじめて危機を脱したと書いてゐるではないか(35頁)。ギリシャがユーロを離れてもさうした適切な政策を採らず、野放圖に好きなだけカネを刷り續けてゐれば、待ち受けてゐるのはさらに悲慘な國民生活だらう。(つづく)

<こちらもどうぞ>