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平等主義を蹴つ飛ばせ

サッカーアニメ『イナズマイレブン』シリーズが面白い。テレビ東京系列で2008年から2011年まで正篇『イナズマイレブン』が放送され、その後始まつた續篇『イナズマイレブンGO』が現在も續いてゐる。正篇はリアルアイムでは觀たことがなかつたのだが、家族(女三人)があまりにも面白い面白いと騒ぐので、DVDで觀てみたら、これがもうやめられない。正篇全三十二卷を一氣に觀終はり、最近は續篇をテレビで樂しんでゐる。魅力の一つは多くの登場人物の個性をていねいに描くところにあるが、それ以外の部分にも、人間の本質は一人一人が異なる個性を持つこと、すなはち不平等にあり、強制的な平等は非人間的な社會をもたらすといふメッセージが込められてゐる。
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中學サッカーの話だが、原作がコンピューターゲームといふこともあり、とうてい實現可能とは思へない必殺技が次々に繰り出されたり、敵に宇宙人が登場(のちに人間と判明)したりして、最初はかなり面喰らふ。しかしそれも慣れれば樂しいし、なにより選手たちをはじめとする登場人物の魅力が大きい。

その多くは不幸な過去を抱へるせゐで、どこか他人に對して心を閉ざしてゐる。自分の試合を觀に來る途中で妹が交通事故に遭ひ昏睡状態になつてしまつた炎のストライカー。わが子同然に育ててくれたサッカーの師匠が惡人だつたとわかり、その精神的呪縛から逃れられず苦しむ天才ゲームメーカー。雪崩で兩親と雙子の弟を失ひ、ショックで弟が第二の人格として心に棲みついてしまふディフェンダー兼フォワード。だが不屈の精神と温かい心を持つキャプテンを中心に敵に立ち向かひ、助け合ふ大切さを學ぶうちに、苦しみを乘り越え、友情を育んでてゆく。キャプテンはかう言ふ。「誰一人、欠けちゃいけない! 俺達は、全員でイナズマジャパン(チーム名)なんだ!!」

言ふまでもなく、サッカーに限らず、團體競技は一人一人の役割が異なる。全員がエースストライカーになつたらチームは成り立たない。限られたポジションには、より能力・適性のある者が就く。また試合には勝者と敗者が伴ふ。だからスポーツは平等主義とは縁遠い。しかし平等主義に凝り固まつた教育關係者の存在を考へると、子供向けアニメでそれに正面切つて異を唱へるのは勇氣のいることだらう。
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ところが『イナズマイレブン』シリーズは劃期的にも、それを登場人物のスピーチといふ形で堂々とやつてのけた。才能に恵まれない子供も平等にサッカーができる社會をつくらうと、試合の勝敗をすべて管理(要するに八百長)によつて決めようとした組織の野望を見事粉碎した後、老監督が次のやうに語る

サッカーは平等なものなどではありません。サッカーは強くなりたいと願い、多くの汗と涙を流した者が勝利を勝ち取る。力を出し切ることができなかった者は敗北し、悔しさで涙する。そこにあるのは平等などではない。驚くほどシビアでつらい現実である。しかし若者たちが思いと思いをぶつけあって心の底から熱くなれる、その熱こそ、長く人生を生きていかねばならないすべての若者たちの勇気になることでしょう。……すべてのサッカーを愛する者たちよ、サッカーを自由にプレーしてほしい。

平等主義egalitarianism)をほとんど宗教のやうに信奉する社會主義者たちは、人間は生まれつき能力や適性が異なり、努力で變へるには限界があるといふ現實を直視しなかつた。そして教育次第で人間はいかやうにも變へることができ、さうなれば分業は消滅する、つまり誰もがエースストライカーになれると主張した。たとへばトロツキーは、共産主義の下では「人間の平均的なタイプはアリストテレスゲーテマルクスのレベルにまで向上しよう」と書いた。カウツキーに至つては、將來の共産主義社會では「新しいタイプの人間が登場するだらう。……超人……高貴なる人間である」とまで豫言した。

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殘念ながら、人間が超人に生まれ變はる氣配はない。となると平等を實現するには別の方法によるしかない。すなはち、優れた者、恵まれた者の能力を強制的に引き下げるのだ。カート・ヴォネガットの短篇小説「ハリスン・バージロン」は、平均より頭のよい者は腦の働きを鈍らせる器具の使用を義務づけられ、容貌の美しい者は假面の裝着を強いられるディストピアを描いてゐる。小説の話と笑つてはゐられない。多額の財産の相續は不平等だとして課税強化を求める社會は、「ハリスン・バージロン」の世界からさう遠くない。美貌も豐かな財産も、子供が「何の努力もせず」親からあたへられる恩恵といふ點では變はりないからだ。

しかし一方で、『イナズマイレブン』シリーズのやうなアニメが子供たちの人氣を集めてゐる事實は、日本の未來に希望を抱かせる。子供たちよ、平等主義なんか蹴つ飛ばせ。
(「『小さな政府』を語ろう」でも公開)