『アナーキズム』

忙しさにかまけて三カ月以上も放置してしまつた。なかなか時間が取れないので、まとまりのない讀書メモのやうなものを少しづつ書くことにしたい。

浅羽通明アナーキズム――名著でたどる日本思想入門』(ちくま新書、2004年)

アナーキズム―名著でたどる日本思想入門 (ちくま新書)

情報量豐かな本だが、アナキズムや自由に對する著者の理解に不滿を覺えた。

著者の浅羽氏は「(近代以降)個人が自由に解き放たれたからこそ、彼らを抑え仕切って、世の中の秩序を護るべき権力は、強大化するほかなかったのではないか」(p.27)と書く。しかしプルードンの言葉にあるやうに、自由は秩序の母であつて、娘ではない。つまり自由こそが社會に眞の秩序を生みだすのであつて、その逆ではない。權力が個人の自由を「抑え仕切って」お仕着せの秩序を築かうとすれば、むしろ混亂と不調和をもたらす。政府こそが秩序を破壞する元兇なのだ。

淺羽氏は自由と安全が相容れないといふ趣旨のことも書いてゐる(p.280-282)が、これもむろん誤りだ。

また淺羽氏は商人、つまり企業について次のやうに書く。

商人なら誰でもが独立した経済主体としての矜持に生きるとは限るまい。むしろ「利潤」「シェア」確保のため、官僚(略)と癒着し、政府の庇護下に入り、巨大経営組織や系列を構築してゆくのが商人ではないか。(略)これが近現代の商人だろう。(p.259)

巨大經營組織や系列の構築は、政府の力を借りなくてもできるし、それは惡いことではない。またすべての大企業が、たとへば電力會社のやうに權力と結託して競爭を制限し、不當に利益を得てゐるわけでもない。杜撰な企業觀と言はざるをえない。

有益な情報。二人の意外なアナキスト

福澤諭吉「それ(理想の政治體制)は無政府だ、政府や法律のあるのは悪いことだ」(石田雄編『福沢諭吉集』「近代日本思想大系」第2巻、筑摩書房)(p.24)

太宰治「おれは此頃、アナキストなんだ。政府なんて、いらんと考えているんだ。全部、商人に任せればいいんですよ。商人は、利に敏いからね。鉄道だって、道路だって、今より上等なものを、ちゃんと作ってくれますよ。儲ける代りに、サービスも満点になりますよ。役所とか、役人とか、そんなものは百害あって、一利なしなんだ。今度の戦争で、実証済みじゃあないか」(堤重久『太宰治との七年間』筑摩書房)(p.240)

<こちらもどうぞ>