2011-01-01から1年間の記事一覧

南北戰爭の虚像と實像

日本のメディアではほとんど話題にされないけれども、今年はアメリカ南北戰爭(1861-65年)開戰百五十周年の節目にあたる。アメリカでは終戰百五十周年までの五年間、數々の講演、展覽會、シンポジウムが豫定されてゐるといふ。南北戰爭は兩軍あはせて六十二…

闇金融は惡くない

真鍋昌平のマンガ『闇金ウシジマくん』の最新刊、第23卷(小学館、2011年)で中心人物となる高田は、丑嶋社長率ゐる闇金融業「カウカウファイナンス」に勤める前、ホストクラブでホストとして働いてゐた。ホストをやめたきつかけは、客の一人だつた未成年の…

理論武裝にスキあり――藤沢数希『日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門』

ブログ「金融日記」で知られる藤沢数希氏の新刊『日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門――もう代案はありません』(ダイヤモンド社、2011年)は好著だ。おそらく最近出版された日本人著者による經濟本のなかで、これほど徹底して市場經濟・…

サンデル教授、やつぱりヘンですよ

昨年のベストセラー、マイケル・サンデル『これからの「正義」の話をしよう』(鬼澤忍譯、早川書房)が早くも文庫本になつた。單行本が出たときに一度この本については批判を書いたが、文庫本には特別附録として、來春刊行豫定といふ最新作 What Money Can't…

差別ですが、それが何か?

はるな檸檬のマンガ『ZUCCAxZUCA(ヅッカヅカ)』(講談社)の第2卷が出た。熱狂的な寶塚歌劇團ファン、いはゆる「ヅカヲタ」たちのしあはせな日常を描いて爆笑を誘ふこと、他の追隨を許さない。いや、追隨も何も、寶塚ファンのことばかり描いたマンガなど、…

呉智英さんに會ふ

昨日(11月19日)、呉智英先生にお會ひした。大學生だつた二十七年前、文化祭で講演を聽いて以來、お目にかかるのは初めてである。親しくお話しすることもでき、すばらしいひとときを過ごすことができた。今囘は、呉先生を講師とする名古屋の名言塾、東京の…

リバタリアンは決定論を否定するか

映畫『アジャストメント』(ジョージ・ノルフィ監督、2011年)をレンタルで觀る前にユーザーレビューを眺めてゐたら、かう書かれてゐた。「運命は実はそれなりに決まっていて、それを逸脱しようとすると、『神の見えざる手』が働きますよと。それに対して、…

松本清張「西郷札」――通貨強制がもたらす悲劇

肩のこらない短い物語が讀みたくなつて、光文社文庫の『松本清張短編全集』第一卷を買つてきた。冒頭に收められたのは昭和二十六年のデビュー作「西郷札」である。松本清張といへば推理物だから、歴史物らしいこの作品はこれまで敬遠してゐたが、せつかくな…

『新オーストリア学派とその論敵』

ホメロスの敍事詩『オデュッセイア』は英語でOdyssey(オデッセイ)だが、小文字のodysseyになると「長い放浪」「遍歴」といふ意味の普通名詞として使はれる。日本の經濟學者で、越後和典氏ほどこの言葉に似つかはしい知的人生を送つてきた人はゐないだらう。…

追剥よりも惡い奴ら(スプーナー)

追剥(おいはぎ)は強盗であること以外を装ったりしない。〔略〕人々をただ「保護する」ことができるよう、その意思に反して金銭を取り上げるのだと称するほど、厚顔ではない。彼は、そのような公言を行うには良識がありすぎるのだ。 ライサンダー・スプーナ…

國家は教育から手を引け(W・フンボルト)

人間の真の目的は〔略〕人間の持つ諸力を最高にしかも最も調和のとれた一つの全体へと陶冶することである。この陶冶の為に自由は、第一の不可欠な条件である。 ヴィルヘルム・フォン・フンボルト『国家活動の限界を確定せんがための試論』より。保守系の「新…

自分の人生を生きよ(ジョブズ)

だれも死にたくはない。天国へ行きたいと願う人々も、そのために死のうとは思わない。けれども、死はだれもが最後に行き着く場所だ。逃れた者はいない。〔略〕時間は限られている。だから無駄にしてはならない。他人の人生を生きてはならない。定説にとらわ…

民主主義をあがめるな(サムナー)

悪徳や激怒が特定の階級だけのものだとか、自由とは貴族や聖職者から権力を奪い取って、それを職人や農夫に与えることのみにあるとか、職人や農夫なら権力を濫用することはないとか考えるのは、何という愚劣でしょう! ウィリアム・グラハム・サムナー「忘れ…

軍事同盟はいらない(ワシントン)

優れた外交方針は、諸外国との通商や貿易を広げながら、できる限り政治的なつながりを持たないことである。 ジョージ・ワシントン「告別演説」(Farewell Address)より。ロン・ポール『他人のカネで生きているアメリカ人に告ぐ』(佐藤研一朗譯、成甲書房、…

不健全な銀行を助けるな(バジョット)

銀行の経営が不健全であれば、今後ともその状態が続くことはたしかであり、政府がそのような銀行を維持・支援すれば、いっそう経営の不健全化が進むだろう。もっとも重要な原則は、現在経営が不健全な銀行に対する援助は、将来の健全な銀行の成立を必ず妨げ…

商業は偏見を癒す(モンテスキュー)

商業は破壊的な偏見を癒(いや)す。そして、習俗が穏やかなところではどこでも商業が存在しているというのがほとんど一般的な原則である。また商業が存在するところではどこでも、穏やかな習俗が存在するというのもそうである。 モンテスキュー『法の精神』…

タイトル變更

ブログのタイトルを「自由の騎士が行く」から「ラディカルな經濟學」に變更しました。今後もどうぞよろしく。

ハゲタカに氣をつけろ(J・S・ミル)

社会には無数の禿鷹(ハゲタカ)がいるので、弱い立場の人が襲われないようにするには、とりわけ強い猛禽(もうきん)がいて、禿鷹を押さえつける役割を担っていなければならない。だが、禿鷹の王もやはり禿鷹であり、弱いものを餌食にしようとすることに変…

『日本人として読んでおきたい保守の名著』

潮匡人『日本人として読んでおきたい保守の名著』(PHP新書、2011年)カバー見返しの内容紹介にかうある。 「ネット保守」という言葉に代表されるように、若い世代で「保守」を自認する人が増えている。しかし、保守層にも日米・日中の外交関係から、TPP参加…

『老子』

『老子』(小川環樹譯註、中公文庫、1973年)戰勝のしらせが屆けば、銃後の國民は花火を上げ、旗行列をして喜ぶ。凱旋將軍は群衆の歡呼と小旗の波に包まれ、盛大な出迎へを受ける。洋の東西を問はず、どこにでも見られる光景だらう。戰爭に勝てば、それを祝…

『原爆投下決断の内幕』

ガー・アルペロビッツ『原爆投下決断の内幕――悲劇のヒロシマ・ナガサキ』(上下、鈴木俊彦他譯、ほるぷ出版、1995年)原爆投下決断の内幕〈上〉―悲劇のヒロシマナガサキ作者: ガーアルペロビッツ,Gar Alperovitz,鈴木俊彦,米山裕子,岩本正恵出版社/メーカー:…

『デフレの正体』

藻谷浩介『デフレの正体――経済は「人口の波」で動く』(角川oneテーマ21、2010年)著者紹介欄によると、藻谷氏は「平成合併前の約3200市町村の99.9%、海外59ヶ国を概ね私費で訪問した経験を持つ」といい、現場で得た豐富な情報を賣り物にしてゐるやうだ。ま…

『マネー避難』

藤巻健史『マネー避難――危険な銀行預金から撤退せよ!』(幻冬舎、2011年)本書には日本の財政問題への嚴しい認識をはじめ、賛同できる部分も少なくない。しかし「円安になれば、今の日本にあるほとんどの問題が解決するのです」(209頁)といふ圓安信仰がす…

『原発のウソ』

小出裕章『原発のウソ』(扶桑社新書、2011年)福島原發事故の發生以來、「原發事故が起こつたのは市場原理主義のせゐ」といふ非難をウェブで時々目にする。「それは間違ひだ」と市場原理主義者である私が言つても信じてもらへないだらうから、次の文章を讀…

『古典で読み解く現代経済』

池田信夫『古典で読み解く現代経済』(PHPビジネス新書、2011年)著者池田氏は「日本で自由主義を根づかせる努力が必要」(p.135)と述べ、自由主義的經濟學者であるハイエクやフリードマンを好意的に取り上げてはゐる。しかしそれだけに、自由主義とは對極…

『図説 ハプスブルク帝国』

加藤雅彦『図説 ハプスブルク帝国』(河出書房新社、1995年)民族自決、國民國家、民主主義。これらはそれほどすばらしいものなのか。ハプスブルク帝國の歴史を知るにつれ、疑問がつのる。ハンガリー生まれの歴史家、フランソワ・フェイトはかう主張してゐる…

『競争の作法』

齊藤誠『競争の作法――いかに働き、投資するか』(ちくま新書、2010年)デフレ脅威論をデータで反駁する第1章は、おもしろい。2002年から2009年まで消費者物價指數はほぼ横ばいだつた。2009年は前年比1.4%低下で、1971年以降最大の下げ幅を記録したと騒がれ…

『大災害から復活する日本』

副島隆彦『大災害から復活する日本』(徳間書店、2011年)副島氏の本は何册も讀んでゐるので、たいていのことには驚かない。福島第一原發事故について「もうどの原子炉も爆発することはない。安心してください」(p.14)などと斷言してゐるのはさすがにどう…

『「通貨」を知れば世界が読める』

浜矩子『「通貨」を知れば世界が読める――"1ドル50円時代"は何をもたらすのか?』(PHPビジネス新書、2011年)世界的な金融危機をきつかけに、通貨への關心が高まつてゐる。21世紀の通貨制度はどうあるべきか。著者浜氏は本書で「通貨体制の三元構図」(p.…

『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論』

荒木飛呂彦『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論』(集英社新書、2011年)人氣マンガ家である著者の本だから、お氣に入りの作品をただ羅列し、紹介する駄本であつても、賣れたことだらう。しかし本書はそのやうないい加減な本ではない。借り物でない、自前の見…