2010-01-01から1年間の記事一覧

トムは真夜中の庭で

「そのときから、ここへきて住んでるの?」 「そのときからじゃない。バーディとわたしは、低地地方でくらしていて、たいへんしあわせでね。子どもは、男の子がふたり生まれた。ふたりとも大戦――いまでは第一次世界大戦といっているようだが、あの戦争で戦死…

私の戰爭觀

なんだか偉さうな題名だが、一度書いておかないと前に進めないので、書いておきたい。私はかつて戰爭を積極的に肯定してゐた。人間にはそれぞれ生命にかけても守りたいと信じるものがあり、それを守るためには、時には暴力の行使も止むを得ない、いやそれど…

『アメリカの大恐慌』を讀む(6)最良の不況対策は自由放任

最良の不況対策は自由放任(Government Depression Policy: Laissez-Faire)もし政府が不況をできるだけ早く終はらせ、經濟に正常な繁榮を取り戻したいのであれば、何をなすべきだらうか。この問ひにロスバードは一言で答へる。「市場の調整過程に干渉しない…

『アメリカの大恐慌』を讀む(5)マネー減少を伴ふ信用収縮

マネー減少を伴ふ信用收縮(Secondary Features of Depression: Deflationary Credit Contraction)見出しにあるdeflationaryを「マネー減少を伴ふ」と譯してゐることに首を傾げる讀者がゐるかもしれない。これは原著中、ロスバードがdeflationといふ語を現…

國家、このあやふやなるもの――『国マニア』

私たちは普段、國家を非常に鞏固な存在と考へてゐる。國家ほど確かなものはないと信じて生きてゐる。だがじつのところ、國家ほどあやふやでいい加減なものはない。吉田一郎『国マニア』(ちくま文庫、2010年)は、國家のさうしたあやふやさ、よく言へば融通…

「デフレは惡い」のウソ(5) 大恐慌その3=金本位制惡玉論を斬る

最も憂慮すべきは、金本位制への的外れな非難だ。普通の讀者は金本位制のことなどほとんど知らないから、高橋洋一氏や勝間和代氏のやうな有名人が惡玉論を書き立てると、素直に信じてしまふ恐れが強い。濡れ衣を着せられた「野蠻の遺物」のために辯じて、締…

「デフレは惡い」のウソ(4) 大恐慌その2=金融危機の本當の理由

銀行の經營危機も、株暴落や不況と同じくFedが金融緩和で野放圖な融資を促したツケとして、引き起こされたものだ。金融緩和が原因で起こつた危機への對策として、またぞろ市場にマネーをぶち込むのは、アル中患者に酒を飮ませるやうなものだ。吾妻ひでおがマ…

「デフレは惡い」のウソ(3) 大恐慌その1=株式ブームはなぜ起こつたか

1929年のニューヨーク株暴落をきつかけとした大恐慌の原因について、私自身の考へは前囘少し觸れたが、あらためて考へてみよう。何が大恐慌の原因だつたのか。高橋氏はかう書いてゐる。 こうした史上まれな不況が、アメリカにおける貨幣的要因によって引き起…

「デフレは惡い」のウソ(2)

高橋洋一氏は『日本経済のウソ』第2章で、歴史的なデフレ局面を取り上げ、名目經濟成長率がプラスなら「良いデフレ」、マイナスなら「悪いデフレ」と評價してゐる。名目成長率がプラスなら肯定的に評價するといふ前提にも同意しかねるが、それより問題なのは…

「デフレは惡い」のウソ(1)

私は高橋洋一氏のファンだ。行政の中樞で働いた經驗がある人だけに、その官僚・政治家批判はじつに具體的で勉強になる。税金の無駄遣ひや天下りのデタラメを指彈する文章を讀んでゐると、主張そのものの徹底ぶりもさることながら、古巣への遠慮もあるだらう…

『アメリカの大恐慌』を讀む(4)好不況はなぜ起こる

好不況はなぜ起こる (The Explanation: Boom and Depression)現代人は好況(boom)と不況(depression)の繰り返しに慣れてしまつてをり、存在するのが當然と思つてゐる。日本人ならたいてい學校の授業で「岩戸景氣」や「いざなぎ景氣」について教はつたこ…

バズの墜落

三歳の娘にせがまれて、ディズニーのアニメ『トイ・ストーリー』をヴィデオ(日本語吹替版)でかれこれ四五囘觀る羽目になつた。世界初の全篇3D・CGアニメと云ふ事で、最初は畫像に對する興味だけで觀てゐた。たしかに映像は見事である。だが、ドラマの…

冒險家精神の抹殺に抗へ――映畫『マン・オン・ワイヤー』

1974年8月7日朝、ニューヨーク世界貿易センターの前を通りかかつた人々は、その場に立ちすくんだ。二つの超高層ビルの頂上の間に張られた一本の綱の上を、命綱もなしに、一人の男が歩いてゐたからだ。男の名はフィリップ・プティ。フランスの大道藝人だ。197…

金錢蔑視といふ僞善の告發――ジョージ秋山『銭ゲバ』

少年時代、極貧のため母に死なれた蒲郡風太郎(がまごほり・ふうたらう)は金錢に強い執着を抱く。長ずるにつれ手段を選ばぬやり口で巨額の富を蓄へ、金の力で政界進出まで果たすが、悲劇的な最期を迎へる。ジョージ秋山のマンガ『銭ゲバ』(幻冬舎文庫、全2…

チャルマーズ・ジョンソン死去

チャルマーズ・ジョンソン死去。『通産省と日本の奇跡』は感心しないが、リバタリアンが戰爭と平和を考へる際の必讀書をいくつか著してゐる。アメリカ帝国への報復作者: チャルマーズジョンソン,Chalmers Johnson,鈴木主税出版社/メーカー: 集英社発売日: 20…

社會主義はなぜ不可能か――『まんがで読破 共産党宣言』と『ヒューマン・アクション』 Why Is Socialism Impossible?

ここ二三年、文學や哲學の古典をマンガ化した文庫本のシリーズが相次いで出版されてゐる。よいことだ。原著の内容をすべてマンガで、それもわづかな頁數で再現するのは無理だらうが、マンガ家が勝れた手腕の持ち主なら、原著のエッセンスを傳へることはでき…

課税は盜みである――「税金鳥」と『自由の倫理学』 Taxation Is Robbery

前囘の記事で紹介した『ドラえもん』第9卷にはもう一つ、政治經濟の本質を衝いた話が載つてゐる。「税金鳥」(ぜいきんとり)だ。藤子・F・不二雄大全集 ドラえもん 9クチコミを見る小遣ひをたんまり貰へるスネ夫が羨ましいのび太、「不公平だ!!」と憤り、ド…

「機會の平等」のウソ――「ハリスン・バージロン」と「ビョードーばくだん」 The Fallacy of 'Equal Opportunity'

ソ聯が崩潰し、社會主義の限界が明らかになつて以來、「結果の平等」を理想として掲げる智識人はさすがにほとんどいなくなつた(まだ一部にゐるやうだが)。だがそれに代はつて「機會の平等」の徹底を求める聲が強まつてゐる。たとへば、經濟的に豐かな家庭…

『アメリカの大恐慌』を讀む(3)集團的過失といふ難問 The Problem: the Cluster of Error

集團的過失といふ難問 (The Problem: the Cluster of Error)景氣循環について、いくつかの「謎」がある。ロスバードによれば、これらの謎を解明できるかどうかが正しい理論の鍵となる。その第一は「集團的過失」(cluster of error)と呼ばれる現象だ。企業…

『アメリカの大恐慌』を讀む(2)景氣循環と景氣變動 Business Cycles and Business Fluctuations

景氣循環と景氣變動 (Business Cycles and Business Fluctuations)景氣循環を理解するうへで、まづ心に留めておかなければならないのは、個々の企業や業界の浮き沈みとの違ひだ。肉屋の店主が「景氣はどうだい」と聞かれ、顏をしかめて「さつぱりだよ」と答…

『アメリカの大恐慌』を讀む(1)明確な景気循環理論 The Positive Theory of the Cycle

大恐慌についての通説を疑ひ、眞の原因を探る試みの一環として、今後しばらく、オーストリア學派の經濟學者・歴史家で、リバタリアンの代表的論客でもあつたマレー・ロスバード(Murray N. Rothbard, 1926-1995年)の著書『アメリカの大恐慌』(America's Gr…

自由放任政策は機能する(3)ハーディング

【ハーディング】第一次大戰終了後まもない1920年から1921年にかけ、米國は戰時景氣の反動で不況に見舞われた。當時の大統領は「常態への復歸」を訴へて就任した共和黨のウォレン・ハーディングだ。ハーディングといへば、米國で實施される各種の「偉大な大…

自由放任政策は機能する(2)クリーヴランド

【クリーヴランド】1890年代、南北戰爭後の經濟發展期を不況が襲つた。當時のグローヴァー・クリーヴランド大統領は、一期おいて計二期務めた唯一の大統領(任期1885-1889年、1893-1897年)として知られるが、ヴァン・ビューレン同樣、民主黨出身で、やはり…

自由放任政策は機能する(1)ヴァン・ビューレン

1929年のニューヨーク市場での株價暴落後、當時のフーヴァー大統領が古典的な自由放任主義にとらはれ、財政出動など打つべき對策を打たなかつたために米國經濟は大不況に陷つた、といふのが現在の教科書的な解説だ。しかし歴史を振り返ると、不況から脱出す…

大恐慌の眞實――何が原因だつたのか(3)

米聯銀が本當にインフレを極度に恐れる存在であれば、世の中に出囘るおカネの量(通貨供給量=マネーサプライ)をできるだけ抑へるはずだ。カネの量が増えれば増えるほど、物價が上昇しやすくなるからだ。しかし實際には、大恐慌に先立つ時期におカネの量は…

大恐慌の眞實――何が原因だつたのか(2)

それにしても、どうして大恐慌當時、聯銀は資金の供給を絞つてしまつたのだらう。ジャーナリストの池上彰は株暴落に先立つ聯銀の行動について次のやうに解説する。 株価が上がって景気が過熱してくるものですから、インフレを心配するんですね。中央銀行とい…

大恐慌の眞實――何が原因だつたのか(1)

大恐慌はなぜ起きたのか。前項で書いた通り、現在、主流派經濟學者の間ではマネーサプライ(通貨供給量=世の中に出囘るカネの量)の急激な減少が原因との見方がほぼ通説となつてゐる。これはノーベル經濟學賞を受賞したミルトン・フリードマンがアンナ・シ…

大恐慌の眞實――通説を疑ふ(3)

大恐慌について學術的により洗煉された説は、米國の中央銀行である聯邦準備制度が民間への資金供給を十分に増やさなかつたためといふものだ。當時の聯銀の指導者らが無能で、資金を増やさなければならない時に何もしなかつた(あるいは事もあらうに資金を減…

大恐慌の眞實――通説を疑ふ(2)

大恐慌や經濟危機一般に關する通説には、細かく見ると、まつたくの俗説やかつて流行した理論、比較的洗煉された學説などが混在してゐる。 まづしばしば言はれるのが、人間の強慾が原因といふ説だ。これほど馬鹿馬鹿しい俗説はない。人間は別に資本主義が誕生…

大恐慌の眞實――通説を疑ふ(1)

1930年代に廣がつた米國の經濟危機、すなはち大恐慌は、一般的な見解によれば、市場經濟の「行き過ぎ」、資本主義の「暴走」が原因だつたとされる。そして大恐慌の「反省」を踏まへ、政府は經濟活動を自由放任に委ねるのでなく、適切に規制して危機の發生を…