『アメリカの大恐慌』を讀む(2)景氣循環と景氣變動 Business Cycles and Business Fluctuations

景氣循環と景氣變動 (Business Cycles and Business Fluctuations)

景氣循環を理解するうへで、まづ心に留めておかなければならないのは、個々の企業や業界の浮き沈みとの違ひだ。肉屋の店主が「景氣はどうだい」と聞かれ、顏をしかめて「さつぱりだよ」と答へたとしても、必ずしも世の中全體の景氣が惡いとは限らない。近所に大手のスーパーができたせゐかもしれないし、健康志向の消費者が肉より野菜を好んで食べるやうになつたせゐかもしれない。だとすると、それはその肉屋だけか、精肉業界だけの部分的な「不景氣」にすぎない。

ビジネスの世界で業者ごと、業界ごとの浮き沈みは常に存在する。これを「景氣變動」(business fluctuation)と呼んでおかう。景氣變動は市場經濟において當たり前の現象であり、それらを説明するのにことさら特別な理論は要らないし、問題視する必要もない。しかし景氣循環は違ふ。特定の業界でなく、世の中全體を熱狂的な好況が支配したかと思ふと、嚴しい不況が襲ふ。そこが問題なのだ。

では一體何が景氣循環を引き起こすのだらうか。特定の商品の需要と供給は、せいぜい一部の業界のビジネスに影響するにすぎない。經濟全體に影響を及ぼすとしたら、あらゆる商品の交換を媒介するもの(general medium of exchange)がかかはつてゐるに違ひない。貨幣、つまりおカネだ。

もし商品Aが値上がりし、別の商品Bが値上がりすれば、AからBに需要が移つたと判斷できるだらう。しかしもしすべての商品が一齊に値上がり・値下がりしたら、それは貨幣の量に變化があつたためだ。他の條件が同一で、世の中に出囘る貨幣の量が増えれば商品全體の價格は上昇するし、貨幣の量が減れば下落する。

しかしこれだけでは、景氣循環が起こる仕組みを説明したことにならないとロスバードは指摘する。おカネの量と物價の變化、それらがどのやうに好況と不況を生み出すのだらう。

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