2010-05-01から1ヶ月間の記事一覧

直觀に反する眞理

學問的眞理の中には、人間の直觀に反し、すんなり受け容れにくいものがある。自然科學では、たとへば地動説だ。太陽は毎日昇つては沈むのに、動いてゐるのは地球のはうだなどと、どうして信じられるだらう。經濟學にもさうした眞理がある。米國の高名な經濟…

リバタリアニズムは弱肉強食か

市場經濟の下では力のあるものだけが豐かになり、力のないものは貧しさを強いられる。市場經濟を信奉するリバタリアニズムは弱肉強食の無慈悲な思想だ――。これもよくある根據なき批判だ。弱肉強食の世界では力こそ正義であつて、もめ事は暴力で解決する。だ…

私はやはり私のもの

ハーヴァード大の政治哲學教授、マイケル・サンデルの講義がNHK教育テレビで放送され話題になつてゐるが、講義に基づく本が出てゐたので買つて來た。『これからの「正義」の話をしよう』(鬼澤忍譯、早川書房)。サンデルと言へばリバタリアンに批判的な…

相續税上げは賢明か

貧困層をベーシックインカムなどで支援する際の財源の一つとして、相續税の課税強化を唱へる意見がある。これをリバタリアンはどう評價するか。課税は本質的に盜みと同じ反道徳的な行爲だからやつてはいけない。とりわけ相續税は、所得税などを召し上げた後…

リバタリアニズムはアメリカ思想か

リバタリアニズムをアメリカの特殊な思想だと思つてゐる人は少なくない。たしかに今の世界で、小さな政府を志向するリバアリアニズムが、決して多數派ではないにしても、學問的にも政治的にも一番盛んな國はアメリカだらう。しかしリバタリアニズムはアメリ…

リバタリアニズムは市場萬能主義か

「リバタリアンは市場に任せればすべてがうまくゆくと思つてゐる」と批判されることがある。だが市場は人間の集まりであり、人間が神でない以上、過ちは避けられない。リバタリアンが説くのは、市場では過ちも起こるが、政府の犯す過ちに比べその惡影響はは…

リバタリアニズムは性善説か

リバタリアニズムに對するよくある批判の一つは「政府の權限を小さくせよといふ主張は、人間がすべて善人といふ思ひ込みを前提としてをり、非現實的」といふものだ。しかしこれはまつたく根據のない誤解だ。現實の世界では、全員が善人ではあり得ない。リバ…

政治問題は道徳問題

世の中には二種類のルールがある。政治の場で決まるルールと、政治以外の場で決まるルールだ。前者の代表は法律であり、後者の代表は道徳だらう。法律上の合法違法と道徳上の善惡は必ずしも一致しない。たとへば自動車で日本の道路の右側を走つたら違法だが…

「財政危機のウソ」のウソ

財政危機なんて嘘だ、政府の借金がどれだけ増えようと心配することはない、政府は個人にはない特別な資金調達の手段があるし、インフレ(物價高)になれば借金の實質的負擔は輕くなるのだから、どんどん借金して公共プロジェクトなどに積極的におカネを使ふ…

教育バウチャーと選擇の不自由(續々)

(4)左翼をつぶせるか教育バウチャーを支持する自由主義者や保守主義者は、バウチャー導入によつて教育から左翼勢力を一掃できると期待する。日本で言へば日本教職員組合(日教組)が事實上の標的だらう。やり方によつてはある程度うまく行くかもしれない…

教育バウチャーと選擇の不自由(續)

(3)金持ち以外は得をするか 教育バウチャーの利點としてもう一つ強調されるのは、私立校の高い授業料を今は拂ふことのできない家庭も、教育の機會を平等に得られるといふものだ。「金融日記」の藤沢氏はかう書いてゐる。「富める者の子弟だけがいい教育を…

教育バウチャーと選擇の不自由

民主黨は參院選のマニフェスト(政權公約)に、子供手當の一部として育兒や教育に使途を限定したバウチャー(金劵)での支給を盛り込む可能性が出てきた。教育バウチャーは、民主黨と反對に、教育現場への競爭原理導入に肯定的な論者にも以前から人氣のある…