2010-12-01から1ヶ月間の記事一覧

トムは真夜中の庭で

「そのときから、ここへきて住んでるの?」 「そのときからじゃない。バーディとわたしは、低地地方でくらしていて、たいへんしあわせでね。子どもは、男の子がふたり生まれた。ふたりとも大戦――いまでは第一次世界大戦といっているようだが、あの戦争で戦死…

私の戰爭觀

なんだか偉さうな題名だが、一度書いておかないと前に進めないので、書いておきたい。私はかつて戰爭を積極的に肯定してゐた。人間にはそれぞれ生命にかけても守りたいと信じるものがあり、それを守るためには、時には暴力の行使も止むを得ない、いやそれど…

『アメリカの大恐慌』を讀む(6)最良の不況対策は自由放任

最良の不況対策は自由放任(Government Depression Policy: Laissez-Faire)もし政府が不況をできるだけ早く終はらせ、經濟に正常な繁榮を取り戻したいのであれば、何をなすべきだらうか。この問ひにロスバードは一言で答へる。「市場の調整過程に干渉しない…

『アメリカの大恐慌』を讀む(5)マネー減少を伴ふ信用収縮

マネー減少を伴ふ信用收縮(Secondary Features of Depression: Deflationary Credit Contraction)見出しにあるdeflationaryを「マネー減少を伴ふ」と譯してゐることに首を傾げる讀者がゐるかもしれない。これは原著中、ロスバードがdeflationといふ語を現…

國家、このあやふやなるもの――『国マニア』

私たちは普段、國家を非常に鞏固な存在と考へてゐる。國家ほど確かなものはないと信じて生きてゐる。だがじつのところ、國家ほどあやふやでいい加減なものはない。吉田一郎『国マニア』(ちくま文庫、2010年)は、國家のさうしたあやふやさ、よく言へば融通…

「デフレは惡い」のウソ(5) 大恐慌その3=金本位制惡玉論を斬る

最も憂慮すべきは、金本位制への的外れな非難だ。普通の讀者は金本位制のことなどほとんど知らないから、高橋洋一氏や勝間和代氏のやうな有名人が惡玉論を書き立てると、素直に信じてしまふ恐れが強い。濡れ衣を着せられた「野蠻の遺物」のために辯じて、締…

「デフレは惡い」のウソ(4) 大恐慌その2=金融危機の本當の理由

銀行の經營危機も、株暴落や不況と同じくFedが金融緩和で野放圖な融資を促したツケとして、引き起こされたものだ。金融緩和が原因で起こつた危機への對策として、またぞろ市場にマネーをぶち込むのは、アル中患者に酒を飮ませるやうなものだ。吾妻ひでおがマ…

「デフレは惡い」のウソ(3) 大恐慌その1=株式ブームはなぜ起こつたか

1929年のニューヨーク株暴落をきつかけとした大恐慌の原因について、私自身の考へは前囘少し觸れたが、あらためて考へてみよう。何が大恐慌の原因だつたのか。高橋氏はかう書いてゐる。 こうした史上まれな不況が、アメリカにおける貨幣的要因によって引き起…

「デフレは惡い」のウソ(2)

高橋洋一氏は『日本経済のウソ』第2章で、歴史的なデフレ局面を取り上げ、名目經濟成長率がプラスなら「良いデフレ」、マイナスなら「悪いデフレ」と評價してゐる。名目成長率がプラスなら肯定的に評價するといふ前提にも同意しかねるが、それより問題なのは…

「デフレは惡い」のウソ(1)

私は高橋洋一氏のファンだ。行政の中樞で働いた經驗がある人だけに、その官僚・政治家批判はじつに具體的で勉強になる。税金の無駄遣ひや天下りのデタラメを指彈する文章を讀んでゐると、主張そのものの徹底ぶりもさることながら、古巣への遠慮もあるだらう…

『アメリカの大恐慌』を讀む(4)好不況はなぜ起こる

好不況はなぜ起こる (The Explanation: Boom and Depression)現代人は好況(boom)と不況(depression)の繰り返しに慣れてしまつてをり、存在するのが當然と思つてゐる。日本人ならたいてい學校の授業で「岩戸景氣」や「いざなぎ景氣」について教はつたこ…

バズの墜落

三歳の娘にせがまれて、ディズニーのアニメ『トイ・ストーリー』をヴィデオ(日本語吹替版)でかれこれ四五囘觀る羽目になつた。世界初の全篇3D・CGアニメと云ふ事で、最初は畫像に對する興味だけで觀てゐた。たしかに映像は見事である。だが、ドラマの…

冒險家精神の抹殺に抗へ――映畫『マン・オン・ワイヤー』

1974年8月7日朝、ニューヨーク世界貿易センターの前を通りかかつた人々は、その場に立ちすくんだ。二つの超高層ビルの頂上の間に張られた一本の綱の上を、命綱もなしに、一人の男が歩いてゐたからだ。男の名はフィリップ・プティ。フランスの大道藝人だ。197…