ロスバード

リフレ主義は國家主義――中野剛志『レジーム・チェンジ』

デフレ(物價の下落)は不況や失業を招く惡であるから、政府の政策を動員して「適正な」インフレ(物價の上昇)に引き戻さなければならない。かうした考へをリフレ主義と呼ぶ。これまでリフレ主義の誤りとそれが經濟・社會に及ぼす害惡についてはたびたび批…

TPPは自由貿易か

小林よしのり『ゴーマニズム宣言スペシャル 反TPP論』(幻冬舎、二〇一二年)を讀んだ。經濟學的には滅茶苦茶な内容である。企業の内部留保が成長維持に缺かせない投資に使はれることを理解せず「全く一般労働者に還元されていない」(15頁)などと日本共産…

私作る人、僕奪ふ人(F・オッペンハイマー)

人間が生きるために必要な富を手に入れ、欲望を滿足させるには、根本的に對立する二つの手段がある。それは勞働と掠奪である。つまり自分で骨を折つて働くか、それとも他人が働いて得た成果を力づくで奪ひ取るかだ。掠奪とか力づくで奪ひ取るとかいふと、犯…

【飜譯】リバタリアンの戰爭理論(ロスバード)

マレー・ロスバード (2011年5月16日、ミーゼス研究所デイリー・コラムより。The Myth of National Defense 〔『國防の神話』、2003年、未邦譯〕より拔粹) リバタリアン運動は、現代の主要な問題に立ち向かふうへで「戰略的知性」を利用できてゐないと、ウ…

追剥よりも惡い奴ら(スプーナー)

追剥(おいはぎ)は強盗であること以外を装ったりしない。〔略〕人々をただ「保護する」ことができるよう、その意思に反して金銭を取り上げるのだと称するほど、厚顔ではない。彼は、そのような公言を行うには良識がありすぎるのだ。 ライサンダー・スプーナ…

「フラット課税で税収アップ」を嬉しがる人たち

「金融日記」の藤沢数希氏が「所得税はフラット10%にして大幅な税収アップ」といふ文章を「アゴラ」に寄せてゐる。フラット課税とは所得の多い少ないにかかはらず、同じ税率を適用する制度だ。現在、日本では所得が多くなるほど税率も高くなる累進課税を採…

【寄稿】金本位制と自由銀行業の役割について

市場経済(資本主義経済)はその本質において、決して弱肉強食的ではない。逆に互恵的であり、友愛や同情、人々の間の連帯感を育てる土壌であることを私は既に述べた。今回は市場経済が正常に発展するには、金本位制と自由銀行業の機能の復活がその必要条件…

『アメリカの大恐慌』を讀む(15)過少消費説

ロスバードの"America's Great Depression"(『アメリカの大恐慌』)を讀むこの試みは、理論篇である第一部を今囘で終へるのを機に、おしまひとする。大恐慌の經緯を具體的に追ふ第二部以降の内容は、今後、シリーズ「大恐慌の眞實」の中で紹介していきたい…

『アメリカの大恐慌』を讀む(14)過剰生産説

ここからロスバードは、オーストリア理論以外のいくつかの景氣理論を俎上に載せ、批判を加へてゆく。過剩生産説(General Overproduction)不況が「過剩生産」によつて引き起こされるといふ解説は今でもよく聞かれる。だがこれは「まつたくのナンセンス」だ…

【寄稿】人間の権利(Man's Right)について

私はこれから木村貴さんの全面的な助力を得て、リバタリアンの立場から、拙文を時々発表させて頂く予定だが、今回は人間の権利とは何かというトピックスを取上げる。問題のポイントは、人間の権利は福祉優先主義(福祉国家の理念)と両立するか否かというこ…

『アメリカの大恐慌』を讀む(13)賃金率と失業

賃金率と失業(Wage rates and unemployment)ケインズ派は、賃金率には「下方硬直性」がある、つまり下がりにくいと想定してゐる。America's Great Depression作者: Murray N. Rothbard出版社/メーカー: www.bnpublishing.com発売日: 2008/12/30メディア: …

『アメリカの大恐慌』を讀む(12)流動性の罠

流動性の罠(The liquidity "trap")ケインズ派は、「流動性選好」(liquidy preference)、つまり貨幣への需要が非常に大きくなることにより、利子率がそれ以上下がらない状態があると主張する。かうなると金融政策では投資を十分に刺戟できず、經濟を不況…

『アメリカの大恐慌』を讀む(11)ケインズ派による批判

ケインズ派による批判(Keynesian Criticism of the Theory)オーストリア學派の景氣循環理論に對するケインズ派からの批判は大きく(1)流動性の罠(2)賃金の下方硬直性――の二つの論點からなされる。いづれもオーストリア學派が前提とする市場の自律調整機能が…

『アメリカの大恐慌』を讀む(10)景氣循環理論への批判と反論

景氣循環理論への批判と反論(Problems in the Austrian Theory of the Trade Cycle)これまで説明したオーストリア學派の景氣循環理論には、異論も唱へられてゐる。この項では主な批判に對し、ロスバードが反論を述べる。America's Great Depression作者: M…

『アメリカの大恐慌』を讀む(9)不況を防ぐ(採るべきだつた政策)

採るべきだつた政策それでは大恐慌前夜の1920年代、アメリカ政府がとるべき適正な政策はどのやうなものだつたのだらう。America's Great Depression作者: Murray N. Rothbard出版社/メーカー: www.bnpublishing.com発売日: 2008/12/30メディア: ペーパーバッ…

『アメリカの大恐慌』を讀む(8)不況を防ぐ(部分準備銀行制度は詐欺)

部分準備銀行制度は詐欺さて、マネー膨脹について考へる際、政府・中央銀行だけでなく、銀行の役割を頭に入れておく必要がある。マネーの中で政府・中央銀行が發行する現金は一部にすぎず、多くは銀行の貸出が占めるからだ。America's Great Depression作者:…

『アメリカの大恐慌』を讀む(7)不況を防ぐ(政府とマネー膨張)

不況を防ぐ (Preventing Depressions)この項「不況を防ぐ」は長くなるため三囘に分け、それぞれ原著にはない見出しを立てる。政府とマネー膨脹前項でロスバードは不況から早く立ち直るための方策を論じたが、そもそも不況が最初から起こらなければ、その方が…

余は如何にして自由主義者となりしか

(明けましておめでたうございます。以下は2008年1月3日に「地獄の箴言」で書いた文章の再掲です)こんな小さな發表の場しかない無名人のくせに、まるで大思想家のやうな大袈裟な信條告白を以下記したいと思ふ。正月休みで暇を持て餘していらつしやる方のみ…

私の戰爭觀

なんだか偉さうな題名だが、一度書いておかないと前に進めないので、書いておきたい。私はかつて戰爭を積極的に肯定してゐた。人間にはそれぞれ生命にかけても守りたいと信じるものがあり、それを守るためには、時には暴力の行使も止むを得ない、いやそれど…

『アメリカの大恐慌』を讀む(6)最良の不況対策は自由放任

最良の不況対策は自由放任(Government Depression Policy: Laissez-Faire)もし政府が不況をできるだけ早く終はらせ、經濟に正常な繁榮を取り戻したいのであれば、何をなすべきだらうか。この問ひにロスバードは一言で答へる。「市場の調整過程に干渉しない…

『アメリカの大恐慌』を讀む(5)マネー減少を伴ふ信用収縮

マネー減少を伴ふ信用收縮(Secondary Features of Depression: Deflationary Credit Contraction)見出しにあるdeflationaryを「マネー減少を伴ふ」と譯してゐることに首を傾げる讀者がゐるかもしれない。これは原著中、ロスバードがdeflationといふ語を現…

『アメリカの大恐慌』を讀む(4)好不況はなぜ起こる

好不況はなぜ起こる (The Explanation: Boom and Depression)現代人は好況(boom)と不況(depression)の繰り返しに慣れてしまつてをり、存在するのが當然と思つてゐる。日本人ならたいてい學校の授業で「岩戸景氣」や「いざなぎ景氣」について教はつたこ…

課税は盜みである――「税金鳥」と『自由の倫理学』 Taxation Is Robbery

前囘の記事で紹介した『ドラえもん』第9卷にはもう一つ、政治經濟の本質を衝いた話が載つてゐる。「税金鳥」(ぜいきんとり)だ。藤子・F・不二雄大全集 ドラえもん 9クチコミを見る小遣ひをたんまり貰へるスネ夫が羨ましいのび太、「不公平だ!!」と憤り、ド…

『アメリカの大恐慌』を讀む(3)集團的過失といふ難問 The Problem: the Cluster of Error

集團的過失といふ難問 (The Problem: the Cluster of Error)景氣循環について、いくつかの「謎」がある。ロスバードによれば、これらの謎を解明できるかどうかが正しい理論の鍵となる。その第一は「集團的過失」(cluster of error)と呼ばれる現象だ。企業…

『アメリカの大恐慌』を讀む(2)景氣循環と景氣變動 Business Cycles and Business Fluctuations

景氣循環と景氣變動 (Business Cycles and Business Fluctuations)景氣循環を理解するうへで、まづ心に留めておかなければならないのは、個々の企業や業界の浮き沈みとの違ひだ。肉屋の店主が「景氣はどうだい」と聞かれ、顏をしかめて「さつぱりだよ」と答…

『アメリカの大恐慌』を讀む(1)明確な景気循環理論 The Positive Theory of the Cycle

大恐慌についての通説を疑ひ、眞の原因を探る試みの一環として、今後しばらく、オーストリア學派の經濟學者・歴史家で、リバタリアンの代表的論客でもあつたマレー・ロスバード(Murray N. Rothbard, 1926-1995年)の著書『アメリカの大恐慌』(America's Gr…

大恐慌の眞實――何が原因だつたのか(3)

米聯銀が本當にインフレを極度に恐れる存在であれば、世の中に出囘るおカネの量(通貨供給量=マネーサプライ)をできるだけ抑へるはずだ。カネの量が増えれば増えるほど、物價が上昇しやすくなるからだ。しかし實際には、大恐慌に先立つ時期におカネの量は…

正しい税制を判斷するたつたひとつの基準

國際通貨基金(IMF)が日本に對する年次報告書で、來年度から消費税率を引き上げるべきだと提言し、消費増税の是非があらためて議論を呼んでゐる。その議論の延長として、消費税率を引き上げる代はりに、法人税率を引き下げて日本企業の競爭力を高めよと…

課税は強盜である

長い歴史を持ち、誰もがそれを當然と思つてゐる制度を疑ふことは難しい。今の日本人からすると、江戸時代の御先祖樣が嚴しい身分制度の下に生きてゐたことなどほとんど信じられないし、逆に江戸の人々が我々を見たら、民主主義などといふ仕組みで政治指導者…

陰謀論を笑ふな

民主黨の藤田幸久國際局長(參議院議員)が2001年9月11日の米同時多發テロについてテロリストの犯行かどうかに疑問を挾んだとして、米紙ワシントン・ポストが社説で同議員を酷評した。異樣だ。實に異樣だ。藤田議員の發言内容ではない。ワシントン・ポストが…