大恐慌

『アメリカの大恐慌』を讀む(15)過少消費説

ロスバードの"America's Great Depression"(『アメリカの大恐慌』)を讀むこの試みは、理論篇である第一部を今囘で終へるのを機に、おしまひとする。大恐慌の經緯を具體的に追ふ第二部以降の内容は、今後、シリーズ「大恐慌の眞實」の中で紹介していきたい…

『アメリカの大恐慌』を讀む(14)過剰生産説

ここからロスバードは、オーストリア理論以外のいくつかの景氣理論を俎上に載せ、批判を加へてゆく。過剩生産説(General Overproduction)不況が「過剩生産」によつて引き起こされるといふ解説は今でもよく聞かれる。だがこれは「まつたくのナンセンス」だ…

『アメリカの大恐慌』を讀む(13)賃金率と失業

賃金率と失業(Wage rates and unemployment)ケインズ派は、賃金率には「下方硬直性」がある、つまり下がりにくいと想定してゐる。America's Great Depression作者: Murray N. Rothbard出版社/メーカー: www.bnpublishing.com発売日: 2008/12/30メディア: …

『アメリカの大恐慌』を讀む(12)流動性の罠

流動性の罠(The liquidity "trap")ケインズ派は、「流動性選好」(liquidy preference)、つまり貨幣への需要が非常に大きくなることにより、利子率がそれ以上下がらない状態があると主張する。かうなると金融政策では投資を十分に刺戟できず、經濟を不況…

『アメリカの大恐慌』を讀む(11)ケインズ派による批判

ケインズ派による批判(Keynesian Criticism of the Theory)オーストリア學派の景氣循環理論に對するケインズ派からの批判は大きく(1)流動性の罠(2)賃金の下方硬直性――の二つの論點からなされる。いづれもオーストリア學派が前提とする市場の自律調整機能が…

『アメリカの大恐慌』を讀む(10)景氣循環理論への批判と反論

景氣循環理論への批判と反論(Problems in the Austrian Theory of the Trade Cycle)これまで説明したオーストリア學派の景氣循環理論には、異論も唱へられてゐる。この項では主な批判に對し、ロスバードが反論を述べる。America's Great Depression作者: M…

『アメリカの大恐慌』を讀む(9)不況を防ぐ(採るべきだつた政策)

採るべきだつた政策それでは大恐慌前夜の1920年代、アメリカ政府がとるべき適正な政策はどのやうなものだつたのだらう。America's Great Depression作者: Murray N. Rothbard出版社/メーカー: www.bnpublishing.com発売日: 2008/12/30メディア: ペーパーバッ…

『アメリカの大恐慌』を讀む(8)不況を防ぐ(部分準備銀行制度は詐欺)

部分準備銀行制度は詐欺さて、マネー膨脹について考へる際、政府・中央銀行だけでなく、銀行の役割を頭に入れておく必要がある。マネーの中で政府・中央銀行が發行する現金は一部にすぎず、多くは銀行の貸出が占めるからだ。America's Great Depression作者:…

『アメリカの大恐慌』を讀む(7)不況を防ぐ(政府とマネー膨張)

不況を防ぐ (Preventing Depressions)この項「不況を防ぐ」は長くなるため三囘に分け、それぞれ原著にはない見出しを立てる。政府とマネー膨脹前項でロスバードは不況から早く立ち直るための方策を論じたが、そもそも不況が最初から起こらなければ、その方が…

『アメリカの大恐慌』を讀む(6)最良の不況対策は自由放任

最良の不況対策は自由放任(Government Depression Policy: Laissez-Faire)もし政府が不況をできるだけ早く終はらせ、經濟に正常な繁榮を取り戻したいのであれば、何をなすべきだらうか。この問ひにロスバードは一言で答へる。「市場の調整過程に干渉しない…

『アメリカの大恐慌』を讀む(5)マネー減少を伴ふ信用収縮

マネー減少を伴ふ信用收縮(Secondary Features of Depression: Deflationary Credit Contraction)見出しにあるdeflationaryを「マネー減少を伴ふ」と譯してゐることに首を傾げる讀者がゐるかもしれない。これは原著中、ロスバードがdeflationといふ語を現…

『アメリカの大恐慌』を讀む(4)好不況はなぜ起こる

好不況はなぜ起こる (The Explanation: Boom and Depression)現代人は好況(boom)と不況(depression)の繰り返しに慣れてしまつてをり、存在するのが當然と思つてゐる。日本人ならたいてい學校の授業で「岩戸景氣」や「いざなぎ景氣」について教はつたこ…

『アメリカの大恐慌』を讀む(3)集團的過失といふ難問 The Problem: the Cluster of Error

集團的過失といふ難問 (The Problem: the Cluster of Error)景氣循環について、いくつかの「謎」がある。ロスバードによれば、これらの謎を解明できるかどうかが正しい理論の鍵となる。その第一は「集團的過失」(cluster of error)と呼ばれる現象だ。企業…

『アメリカの大恐慌』を讀む(2)景氣循環と景氣變動 Business Cycles and Business Fluctuations

景氣循環と景氣變動 (Business Cycles and Business Fluctuations)景氣循環を理解するうへで、まづ心に留めておかなければならないのは、個々の企業や業界の浮き沈みとの違ひだ。肉屋の店主が「景氣はどうだい」と聞かれ、顏をしかめて「さつぱりだよ」と答…

『アメリカの大恐慌』を讀む(1)明確な景気循環理論 The Positive Theory of the Cycle

大恐慌についての通説を疑ひ、眞の原因を探る試みの一環として、今後しばらく、オーストリア學派の經濟學者・歴史家で、リバタリアンの代表的論客でもあつたマレー・ロスバード(Murray N. Rothbard, 1926-1995年)の著書『アメリカの大恐慌』(America's Gr…

大恐慌の眞實――何が原因だつたのか(3)

米聯銀が本當にインフレを極度に恐れる存在であれば、世の中に出囘るおカネの量(通貨供給量=マネーサプライ)をできるだけ抑へるはずだ。カネの量が増えれば増えるほど、物價が上昇しやすくなるからだ。しかし實際には、大恐慌に先立つ時期におカネの量は…

大恐慌の眞實――何が原因だつたのか(2)

それにしても、どうして大恐慌當時、聯銀は資金の供給を絞つてしまつたのだらう。ジャーナリストの池上彰は株暴落に先立つ聯銀の行動について次のやうに解説する。 株価が上がって景気が過熱してくるものですから、インフレを心配するんですね。中央銀行とい…

大恐慌の眞實――何が原因だつたのか(1)

大恐慌はなぜ起きたのか。前項で書いた通り、現在、主流派經濟學者の間ではマネーサプライ(通貨供給量=世の中に出囘るカネの量)の急激な減少が原因との見方がほぼ通説となつてゐる。これはノーベル經濟學賞を受賞したミルトン・フリードマンがアンナ・シ…

大恐慌の眞實――通説を疑ふ(3)

大恐慌について學術的により洗煉された説は、米國の中央銀行である聯邦準備制度が民間への資金供給を十分に増やさなかつたためといふものだ。當時の聯銀の指導者らが無能で、資金を増やさなければならない時に何もしなかつた(あるいは事もあらうに資金を減…

大恐慌の眞實――通説を疑ふ(2)

大恐慌や經濟危機一般に關する通説には、細かく見ると、まつたくの俗説やかつて流行した理論、比較的洗煉された學説などが混在してゐる。 まづしばしば言はれるのが、人間の強慾が原因といふ説だ。これほど馬鹿馬鹿しい俗説はない。人間は別に資本主義が誕生…

大恐慌の眞實――通説を疑ふ(1)

1930年代に廣がつた米國の經濟危機、すなはち大恐慌は、一般的な見解によれば、市場經濟の「行き過ぎ」、資本主義の「暴走」が原因だつたとされる。そして大恐慌の「反省」を踏まへ、政府は經濟活動を自由放任に委ねるのでなく、適切に規制して危機の發生を…