2010-01-01から1年間の記事一覧

正しい税制を判斷するたつたひとつの基準

國際通貨基金(IMF)が日本に對する年次報告書で、來年度から消費税率を引き上げるべきだと提言し、消費増税の是非があらためて議論を呼んでゐる。その議論の延長として、消費税率を引き上げる代はりに、法人税率を引き下げて日本企業の競爭力を高めよと…

リバタリアニズムFAQ)政府に對する二つの立場――「無」か「最小」か

リバタリアニズムは政府がまつたく必要ないと考へるのか。 リバタリアニズムは個人の自由に對する政府の介入に反對しますが、ここから政府の役割について二つの立場が生じます。一つは「個人の自由を守るといふ役割だけは政府に認める」といふ立場、もう一つ…

リバタリアニズムFAQ)リバタリアニズムつて何?

リバタリアニズムに關するよくある疑問・批判に答へるコーナーです。「リバタリアニズムQ&A」を改題します。まづはあらためて最も基本的な疑問から。 そもそもリバタリアニズムとは何なのか。 リバタリアニズム(libertarianism)とは、他者の權利を侵害…

資本主義成敗の茶番――『ジャングル』の時代(3)

ニューレフトの歴史家で、リバタリアンからも高く評價されるガブリエル・コルコはかう書いてゐる。 もし精肉業者の力が眞に絶大で、本心から法案に反對してゐたとすると、壓倒的な賛成票を説明できない。事の眞相はもちろん、大手精肉業者は規制の心温かい友…

資本主義成敗の茶番――『ジャングル』の時代(2)

まづ『ジャングル』に描かれた劣惡な勞働條件や衞生環境は、大幅に誇張されてゐた。同書が出版された1906年に政府が實施した精肉業者に對する調査は、その年のうちに結果が内々に報告されたが、一讀したルーズヴェルトは「ひどいものだ」と論評しただけで、…

資本主義成敗の茶番――『ジャングル』の時代(1)

二十世紀初頭の米國で「革新主義(Progressivism)」と呼ばれる改革運動が起こつた。その旗印は、獨占資本を打破し、米國社會に本來の自由を取り戻すことだつた。この運動を背景に、米國政府は樣々な經濟的規制を打ち出した。代表的なのは日本の獨占禁止法に…

ダン・イン・ワンダーランド

「あなたの話、何言ってるのか、さっぱりわからないわ」と、アリスは言いました。(ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』、脇明子譯、岩波少年文庫、89頁) 企業經營の經驗があつても、經濟の仕組みを理解してゐるとは限らない。桁外れの讀書量を誇つても…

リバタリアニズム・ジャパン・プロジェクト

日本におけるリバタリアニズムの普及・啓蒙を目的とした、有志による意見發信の試み、Libertarianism Japan Project が始まりました。私も聲をかけていただき、參加することになりました。早速、メンバーが共同で運營するブログに抱負と自己紹介の文章を投稿…

國家は共同體か

共同體といふ言葉は人氣がある。心地よい連帶を想像させるからだらう。英語のcommunityもそれを譯した日本語の共同體も、今では地域社會といふ元の意味から轉じて、各種の政治的・社會的・文化的な結びつきにも譬喩的に使はれる。しかし譬喩は便利だが、似て…

リバタリアニズムQ&A)日本人が學ぶ意味は?

リバタリアニズムが言ふとほり、經濟を自由に任せれば人間は物質的に豐かになるかもしれない。だが人間は物質的に豐かになると道徳的に墮落する。だから自由は規制すべきだ。 「人間は物質的に豐かになると道徳的に墮落する」と信じる人が自發的に「清貧」を…

著作權と文化

コメント欄に書くつもりでしたが、長いのでこちらにします。著作權の目的は「文化の発展に寄与すること」(著作權法第1條)ですが、かへつて文化の發展を阻害してしまつてゐます。典型的な例としては、著作權の切れた文學作品はウェブで無料で讀むことができ…

リバタリアニズムQ&A)虚無主義か?

リバタリアニズムの目的は自由だと言ふが、自由とは何かを行ふための條件であつて、目的そのものにはなり得ない。リバタリアニズムは價値觀を持たない虚無主義ではないか。 リバタリアニズムは政治哲學の一種です。政治哲學には、コミュニタリアニズム(共同…

リバタリアニズムQ&A)相對主義か?

コメント欄でのやりとりなどを通じ、リバタリアニズムに對する疑問がいろいろわかつてきました。ときどき、それらをQ&Aの形でまとめてみます。その第1囘。 リバタリアニズムはすべての自由を認めるのだから、リバタリアニズムを否定する自由も認めること…

直觀に反する眞理

學問的眞理の中には、人間の直觀に反し、すんなり受け容れにくいものがある。自然科學では、たとへば地動説だ。太陽は毎日昇つては沈むのに、動いてゐるのは地球のはうだなどと、どうして信じられるだらう。經濟學にもさうした眞理がある。米國の高名な經濟…

リバタリアニズムは弱肉強食か

市場經濟の下では力のあるものだけが豐かになり、力のないものは貧しさを強いられる。市場經濟を信奉するリバタリアニズムは弱肉強食の無慈悲な思想だ――。これもよくある根據なき批判だ。弱肉強食の世界では力こそ正義であつて、もめ事は暴力で解決する。だ…

私はやはり私のもの

ハーヴァード大の政治哲學教授、マイケル・サンデルの講義がNHK教育テレビで放送され話題になつてゐるが、講義に基づく本が出てゐたので買つて來た。『これからの「正義」の話をしよう』(鬼澤忍譯、早川書房)。サンデルと言へばリバタリアンに批判的な…

相續税上げは賢明か

貧困層をベーシックインカムなどで支援する際の財源の一つとして、相續税の課税強化を唱へる意見がある。これをリバタリアンはどう評價するか。課税は本質的に盜みと同じ反道徳的な行爲だからやつてはいけない。とりわけ相續税は、所得税などを召し上げた後…

リバタリアニズムはアメリカ思想か

リバタリアニズムをアメリカの特殊な思想だと思つてゐる人は少なくない。たしかに今の世界で、小さな政府を志向するリバアリアニズムが、決して多數派ではないにしても、學問的にも政治的にも一番盛んな國はアメリカだらう。しかしリバタリアニズムはアメリ…

リバタリアニズムは市場萬能主義か

「リバタリアンは市場に任せればすべてがうまくゆくと思つてゐる」と批判されることがある。だが市場は人間の集まりであり、人間が神でない以上、過ちは避けられない。リバタリアンが説くのは、市場では過ちも起こるが、政府の犯す過ちに比べその惡影響はは…

リバタリアニズムは性善説か

リバタリアニズムに對するよくある批判の一つは「政府の權限を小さくせよといふ主張は、人間がすべて善人といふ思ひ込みを前提としてをり、非現實的」といふものだ。しかしこれはまつたく根據のない誤解だ。現實の世界では、全員が善人ではあり得ない。リバ…

政治問題は道徳問題

世の中には二種類のルールがある。政治の場で決まるルールと、政治以外の場で決まるルールだ。前者の代表は法律であり、後者の代表は道徳だらう。法律上の合法違法と道徳上の善惡は必ずしも一致しない。たとへば自動車で日本の道路の右側を走つたら違法だが…

「財政危機のウソ」のウソ

財政危機なんて嘘だ、政府の借金がどれだけ増えようと心配することはない、政府は個人にはない特別な資金調達の手段があるし、インフレ(物價高)になれば借金の實質的負擔は輕くなるのだから、どんどん借金して公共プロジェクトなどに積極的におカネを使ふ…

教育バウチャーと選擇の不自由(續々)

(4)左翼をつぶせるか教育バウチャーを支持する自由主義者や保守主義者は、バウチャー導入によつて教育から左翼勢力を一掃できると期待する。日本で言へば日本教職員組合(日教組)が事實上の標的だらう。やり方によつてはある程度うまく行くかもしれない…

教育バウチャーと選擇の不自由(續)

(3)金持ち以外は得をするか 教育バウチャーの利點としてもう一つ強調されるのは、私立校の高い授業料を今は拂ふことのできない家庭も、教育の機會を平等に得られるといふものだ。「金融日記」の藤沢氏はかう書いてゐる。「富める者の子弟だけがいい教育を…

教育バウチャーと選擇の不自由

民主黨は參院選のマニフェスト(政權公約)に、子供手當の一部として育兒や教育に使途を限定したバウチャー(金劵)での支給を盛り込む可能性が出てきた。教育バウチャーは、民主黨と反對に、教育現場への競爭原理導入に肯定的な論者にも以前から人氣のある…

GDPのイデオロギー

GDP(國内總生産)の定義式を楯に政府支出の拡大を訴へるやうな經濟評論家たちは想像したこともないだらうが、GDPの概念には多くの問題がある。 GDP=民間消費+民間投資+政府支出+純輸出 右邊の各項目のうち、民間消費、民間投資、純輸出の増減…

市場經濟が嫌はれる理由

市場經濟が人間にもたらす恩恵は大きいにもかかはらず、一般の人々の間には不信や反感が根強い。市場經濟はなぜ嫌はれるのか。リバタリアンの經濟學者ウォルター・ブロックは、社會生物學の智識をもとに、市場經濟が人々に嫌はれる理由を次のやうに推測して…

サイバーケインジアン!

池田信夫と言へば、ウェブ論壇の著名人であり、經濟分野ではナンバーワンの人氣ブロガーだ。私も池田氏の文章はたいてい讀む。勞働や通信の規制に對する批判をはじめ、同感できるものも少なくない。規制緩和と聞いただけで「このネオリベ」といきり立つ輩が…

くたばれGDPフェチ

先日の記事で述べたやうに、財政政策で國が豐かになることはない。政府が國民から富を取り上げ、それを他の國民にばらまいても、國民全體が豐かになることはない。ところがエコノミストや評論家の中には、財政政策で國が豐かになると力説する人が少なくない…

財政政策の幻想

政府が行ふ經濟對策は有害無益なものばかりだが、「財政政策」もその一つだ。ひと頃は豫算の無駄遣ひといふ非難を浴びて鳴りを潛めてゐたが、最近の不景氣で「やつぱり必要」といふ聲が息を吹き返してきた。性懲りもないとはこのことだ。經濟學の教科書など…