經濟

保守は經濟がわからない

1989年前後にソ聯・東歐の社會主義諸國が崩潰し、左翼言論人が信奉するマルクス經濟學の威信は地に墮ちた。それ以來、讀者を増やしたのが保守派言論人の經濟論である。「左」の經濟論が間違つてゐたのだから、「右」のそれは正しいだらうと人々が思ひこむの…

新自由主義者の意地

今年1月に死去した經濟學者、加藤寛(慶應義塾大學名譽教授)の遺作『日本再生最終勧告――原発即時ゼロで未来を拓く』(ビジネス社)が刊行された。副題にあるとほり、加藤は本書で原子力発電の即時停止と廢爐を主張してゐる。加藤がかつて自民黨政權のブレー…

マクロ經濟學のウソ

大規模な金融緩和や財政出動を柱とする安倍晋三政權の「アベノミクス」は海外でも賛否兩論だが、最も舌鋒鋭く批判した一人は、米國の經濟評論家ピーター・シフだらう。シフは1月のテレビインタビューでかう語つた。「日本にこれ以上のインフレは必要ありませ…

「破綻しない」は良いことか

經濟評論家の三橋貴明は、最新刊『経済の自虐主義を排す――日本の成長を妨げたい人たち』(小学館101新書)で、日本政府の負債(借金)はすべて日本圓建てだから、圓をいくらでも發行できる日本政府が財政破綻することはありえない、といふ持論を繰り返す。だ…

古びない眞理

經濟學は時事問題を取り扱ふことが多いし、目新しい理論がしばしば脚光を浴びるので、何十年も昔の入門書など價値がないと思ふかもしれない。だがそれは誤解である。經濟學は人間の行爲についての學問であり、人間の本質が變はらないかぎり、過去に見出され…

『國富論』を稱へるな

前囘述べたとほり、アダム・スミスは『國富論』で、經濟學的に重大な誤りを含む議論を展開してゐる。『新・国富論』の浜矩子はこれらの議論に言及してゐるが、誤りであることを知らないらしく、批判するどころか、偉大なスミス先生の御説はやはりすばらしい…

アダム・スミスを崇めるな

アダム・スミス(1723-90)といへば、「經濟學の父」として有名である。主著『國富論』(1776)は經濟學の古典として名高い。けれどもスミスは、ほんたうに「經濟學の父」だつたのだらうか。『國富論』はそれほどすばらしい名著なのだらうか。この二つの問ひ…

デフレより怖いリフレ

經濟學者のほとんどは、デフレ(物價全般の低下)は經濟に惡影響を及ぼすと主張する。そしてその多くは、二―三パーセントのインフレ(物價全般の上昇)に戻す政策を提言する。これをリフレ政策と呼び、そのおもな手段は積極的な金融緩和である。だが以前も書…

經濟危機の犯人

安倍内閣が事業規模二十兆圓超にのぼる緊急經濟對策を閣議決定した。今年度補正豫算案の規模は十兆圓超で、リーマン・ショック後の2009年に麻生内閣が組んだ十五兆圓弱に迫る。かうした大型の經濟對策が正當化されるのは、經濟危機は市場經濟の失敗によつて…

ハイパーインフレが起こるとき

日銀にインフレ(物價上昇)目標設定を要求する安倍政權が發足したことで、言論界の一部ではインフレへの警戒心が高まり、ハイパーインフレ(急激な物價上昇)の發生を警告する聲さへある。これに對し、日本はデフレ(物價下落)に苦しんでゐるのだから、心…

市場經濟への濡衣

市場經濟はしばしば、經濟・社會問題の元兇として責められる。しかしそれはたいていの場合、根據のない濡衣(ぬれぎぬ)である。眞犯人は、これもたいていの場合、政府である。 經濟評論家の三橋貴明は、著書『2013年 大転換する世界 逆襲する日本』(徳間書…

政府が起こした大恐慌

今月は大恐慌が始まつた月である。今から八十三年前、1929年10月24日の「暗黒の木曜日」のニューヨーク株暴落をきつかけに、米國で長期にわたる深刻な不況が起こり、世界に廣がつた。現在の一般的見方では、大恐慌は自由放任的な資本主義が招いた「市場の失…

ノーベル經濟學賞の虚像

ノーベル經濟學賞は言ふまでもなく、經濟學で最も權威ある賞の一つとされる。物理學賞、化學賞とともにスウェーデン王立科學アカデミーによつて銓衡され、正式名稱に經濟學(Economics)でなく「經濟科學」(Economic Sciences)といふ語を用ゐるなど、經濟…

平和の敵は政府

『静かなる大恐慌』(集英社新書)で著者の柴山桂太(滋賀大准教授)は、經濟の自由化・グローバル化は世界を繁榮と平和に導くとは限らず、むしろ國家の對立を高めてしまふ傾向があると主張する。だが柴山は非難する對象を間違へてゐる。國際的な對立を高め…

「經濟對策」が招く危機

日米歐の積み上がつた國家債務に警告を發するジョン・モールディン、ジョナサン・テッパー共著『エンドゲーム』(山形浩生譯、プレジデント社)の「訳者あとがき」で、山形は異例にも、自分が飜譯した同書の主張に眞つ向から異を唱へる。しかしその批判はケ…

金本位制といふ選擇

米大統領選を前に、共和黨が金本位制への復歸を檢討する委員會の設置を政策綱領に盛り込み、注目されてゐる。金本位制復活に對する經濟專門家やメディアの評價は大半が否定的で、「トンデモ本の世界では人気あるトピック」とこき下ろす向きもある。 しかし金…

「デフレは惡」の呪縛

若田部昌澄・栗原裕一郎『本当の経済の話をしよう』(ちくま新書)は、すばらしい部分と惜しまれる部分が混在してゐる。經濟學者で先生役の若田部は、評論家で生徒役の栗原に、多彩なエピソードを交へて經濟學の基本をわかりやすく講義する。すばらしいのは…

良い金持ち・惡い金持ち

「金持ちになるには二つの方法がある。富を創出する方法と、他人の富を奪う方法だ」。ノーベル賞受賞經濟學者で、すでに多くの著作が邦譯されてゐるジョセフ・スティグリッツは、最新刊『世界の99%を貧困にする経済』(楡井浩一・峯村利哉譯、徳間書店)の初…

中央銀行はいらない

今の日本で「日銀を廢止せよ」などと言へば、頭のをかしい奴としか思はれまい。しかし米國には、中央銀行廢止論を三十年以上も大まじめに主張しつづけてゐる國會議員がゐる。大統領選にも何度か出馬した、聯邦下院議員のロン・ポール(テキサス州選出、共和…

さつさと政府を退場させろ

ポール・クルーグマンの最新刊『さっさと不況を終わらせろ』(山形浩生譯、早川書房)が出た。クルーグマンと言へば、現代經濟學を支配するカルト宗教、ケインズ教の最も有名かつ熱心な傳道師である。もちろん本の中身は、政府といふ神の「御業」が十分にお…

ハイエク對フリードマン

フリードリヒ・ハイエク(1899-1992)とミルトン・フリードマン(1912-2006)はしばしば、「新自由主義」の經濟學者としてひとくくりにされる。たしかに經濟にたいする政府の干渉を批判する點で二人は共通してゐる。しかしぜひ知つておかなければならないの…

フリードマンを超えろ

二十世紀を代表する經濟學者の一人、ミルトン・フリードマンの『選択の自由』(西山千明譯、日本経済新聞出版社)が新裝版で再登場した。しばらく品切れになつてゐたので、復刊で手に入れやすくなつたのは喜ばしい。ただしこの本は注意して讀まなければなら…