市場と國家

自由放任政策は機能する(2)クリーヴランド

【クリーヴランド】1890年代、南北戰爭後の經濟發展期を不況が襲つた。當時のグローヴァー・クリーヴランド大統領は、一期おいて計二期務めた唯一の大統領(任期1885-1889年、1893-1897年)として知られるが、ヴァン・ビューレン同樣、民主黨出身で、やはり…

自由放任政策は機能する(1)ヴァン・ビューレン

1929年のニューヨーク市場での株價暴落後、當時のフーヴァー大統領が古典的な自由放任主義にとらはれ、財政出動など打つべき對策を打たなかつたために米國經濟は大不況に陷つた、といふのが現在の教科書的な解説だ。しかし歴史を振り返ると、不況から脱出す…

正しい税制を判斷するたつたひとつの基準

國際通貨基金(IMF)が日本に對する年次報告書で、來年度から消費税率を引き上げるべきだと提言し、消費増税の是非があらためて議論を呼んでゐる。その議論の延長として、消費税率を引き上げる代はりに、法人税率を引き下げて日本企業の競爭力を高めよと…

資本主義成敗の茶番――『ジャングル』の時代(3)

ニューレフトの歴史家で、リバタリアンからも高く評價されるガブリエル・コルコはかう書いてゐる。 もし精肉業者の力が眞に絶大で、本心から法案に反對してゐたとすると、壓倒的な賛成票を説明できない。事の眞相はもちろん、大手精肉業者は規制の心温かい友…

資本主義成敗の茶番――『ジャングル』の時代(2)

まづ『ジャングル』に描かれた劣惡な勞働條件や衞生環境は、大幅に誇張されてゐた。同書が出版された1906年に政府が實施した精肉業者に對する調査は、その年のうちに結果が内々に報告されたが、一讀したルーズヴェルトは「ひどいものだ」と論評しただけで、…

資本主義成敗の茶番――『ジャングル』の時代(1)

二十世紀初頭の米國で「革新主義(Progressivism)」と呼ばれる改革運動が起こつた。その旗印は、獨占資本を打破し、米國社會に本來の自由を取り戻すことだつた。この運動を背景に、米國政府は樣々な經濟的規制を打ち出した。代表的なのは日本の獨占禁止法に…

ダン・イン・ワンダーランド

「あなたの話、何言ってるのか、さっぱりわからないわ」と、アリスは言いました。(ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』、脇明子譯、岩波少年文庫、89頁) 企業經營の經驗があつても、經濟の仕組みを理解してゐるとは限らない。桁外れの讀書量を誇つても…

國家は共同體か

共同體といふ言葉は人氣がある。心地よい連帶を想像させるからだらう。英語のcommunityもそれを譯した日本語の共同體も、今では地域社會といふ元の意味から轉じて、各種の政治的・社會的・文化的な結びつきにも譬喩的に使はれる。しかし譬喩は便利だが、似て…

著作權と文化

コメント欄に書くつもりでしたが、長いのでこちらにします。著作權の目的は「文化の発展に寄与すること」(著作權法第1條)ですが、かへつて文化の發展を阻害してしまつてゐます。典型的な例としては、著作權の切れた文學作品はウェブで無料で讀むことができ…

直觀に反する眞理

學問的眞理の中には、人間の直觀に反し、すんなり受け容れにくいものがある。自然科學では、たとへば地動説だ。太陽は毎日昇つては沈むのに、動いてゐるのは地球のはうだなどと、どうして信じられるだらう。經濟學にもさうした眞理がある。米國の高名な經濟…

私はやはり私のもの

ハーヴァード大の政治哲學教授、マイケル・サンデルの講義がNHK教育テレビで放送され話題になつてゐるが、講義に基づく本が出てゐたので買つて來た。『これからの「正義」の話をしよう』(鬼澤忍譯、早川書房)。サンデルと言へばリバタリアンに批判的な…

相續税上げは賢明か

貧困層をベーシックインカムなどで支援する際の財源の一つとして、相續税の課税強化を唱へる意見がある。これをリバタリアンはどう評價するか。課税は本質的に盜みと同じ反道徳的な行爲だからやつてはいけない。とりわけ相續税は、所得税などを召し上げた後…

政治問題は道徳問題

世の中には二種類のルールがある。政治の場で決まるルールと、政治以外の場で決まるルールだ。前者の代表は法律であり、後者の代表は道徳だらう。法律上の合法違法と道徳上の善惡は必ずしも一致しない。たとへば自動車で日本の道路の右側を走つたら違法だが…

「財政危機のウソ」のウソ

財政危機なんて嘘だ、政府の借金がどれだけ増えようと心配することはない、政府は個人にはない特別な資金調達の手段があるし、インフレ(物價高)になれば借金の實質的負擔は輕くなるのだから、どんどん借金して公共プロジェクトなどに積極的におカネを使ふ…

教育バウチャーと選擇の不自由(續々)

(4)左翼をつぶせるか教育バウチャーを支持する自由主義者や保守主義者は、バウチャー導入によつて教育から左翼勢力を一掃できると期待する。日本で言へば日本教職員組合(日教組)が事實上の標的だらう。やり方によつてはある程度うまく行くかもしれない…

教育バウチャーと選擇の不自由(續)

(3)金持ち以外は得をするか 教育バウチャーの利點としてもう一つ強調されるのは、私立校の高い授業料を今は拂ふことのできない家庭も、教育の機會を平等に得られるといふものだ。「金融日記」の藤沢氏はかう書いてゐる。「富める者の子弟だけがいい教育を…

教育バウチャーと選擇の不自由

民主黨は參院選のマニフェスト(政權公約)に、子供手當の一部として育兒や教育に使途を限定したバウチャー(金劵)での支給を盛り込む可能性が出てきた。教育バウチャーは、民主黨と反對に、教育現場への競爭原理導入に肯定的な論者にも以前から人氣のある…

GDPのイデオロギー

GDP(國内總生産)の定義式を楯に政府支出の拡大を訴へるやうな經濟評論家たちは想像したこともないだらうが、GDPの概念には多くの問題がある。 GDP=民間消費+民間投資+政府支出+純輸出 右邊の各項目のうち、民間消費、民間投資、純輸出の増減…

市場經濟が嫌はれる理由

市場經濟が人間にもたらす恩恵は大きいにもかかはらず、一般の人々の間には不信や反感が根強い。市場經濟はなぜ嫌はれるのか。リバタリアンの經濟學者ウォルター・ブロックは、社會生物學の智識をもとに、市場經濟が人々に嫌はれる理由を次のやうに推測して…

サイバーケインジアン!

池田信夫と言へば、ウェブ論壇の著名人であり、經濟分野ではナンバーワンの人氣ブロガーだ。私も池田氏の文章はたいてい讀む。勞働や通信の規制に對する批判をはじめ、同感できるものも少なくない。規制緩和と聞いただけで「このネオリベ」といきり立つ輩が…

くたばれGDPフェチ

先日の記事で述べたやうに、財政政策で國が豐かになることはない。政府が國民から富を取り上げ、それを他の國民にばらまいても、國民全體が豐かになることはない。ところがエコノミストや評論家の中には、財政政策で國が豐かになると力説する人が少なくない…

財政政策の幻想

政府が行ふ經濟對策は有害無益なものばかりだが、「財政政策」もその一つだ。ひと頃は豫算の無駄遣ひといふ非難を浴びて鳴りを潛めてゐたが、最近の不景氣で「やつぱり必要」といふ聲が息を吹き返してきた。性懲りもないとはこのことだ。經濟學の教科書など…

財産權? それが何か?

個人の財産權は侵すことのできない神聖な權利だと考へるリバタリアンの立場から見ると、政府が課税やインフレ(通貨量の膨脹)によつて個人の財産を奪ふことは、「民間」の強盜と同じく、犯罪行爲に外ならない。だが殘念ながら、その道理を認め、國民の財産…

他人の金で生きる自由?

橘玲『貧乏はお金持ち』(講談社、2009年)の「まえがき」(ウェブで公開されてゐる)はかう始まる。 この本のコンセプトは単純だ。/自由に生きることは素晴らしい。(3頁、強調は原文) たしかに自由に生きることは素晴らしい。だがその自由をどう守るのか…

インフレはなぜ「インフレ」か

石油や食料品など一部の商品が値上がりするだけでは、インフレとはいいません。インフレとは物価全体が持続的に上昇する現象を指すのです――。經濟學の入門書によくこんな解説が書いてある。素直な讀者は「なるほど、これで經濟リテラシーが高まつた」と喜ぶ…

保護主義の罠

『自由貿易の罠』(青土社、2009年)の著者、中野剛志は經濟産業省職員だが、政府による貿易の制限、すなはち保護主義の強化を主張した同書の「あとがき」でかう強調してゐる。 筆者は、自分が大学教授であろうと、新聞記者であろうと、あるいはダンサーであ…

課税は強盜である

長い歴史を持ち、誰もがそれを當然と思つてゐる制度を疑ふことは難しい。今の日本人からすると、江戸時代の御先祖樣が嚴しい身分制度の下に生きてゐたことなどほとんど信じられないし、逆に江戸の人々が我々を見たら、民主主義などといふ仕組みで政治指導者…

民主主義者 西部邁

世間の大半の人は、自由主義と民主主義は似たやうなものだと思つてゐる。だが兩者は全く別物だ。それどころか正反對の理念ですらある。自由主義*1は政府が個人の自由を束縛することに反對する。したがつて政府の權限を可能な限り小さくすることを要求し、最…

金本位制を擁護する

クイズ。1929年に起きた世界恐慌の原因は次のどれ? ものすごいインフレが起こった ニューヨークである日突然株が大暴落した 金本位制に復帰した 勝間和代・宮崎哲弥・飯田泰之『日本経済復活 一番かんたんな方法』(光文社新書、2010年、168-169頁)による…

山よ、國家主義と鬪へ

反市場の風潮と鬪ふべくこのブログを始めたわけだが、早くも最強の敵が現れた。なにしろ相手は人間ではない。山だ。いや、相撲取りではない。本物の山だ。日本中の山が私のやうな市場原理主義者を目の敵にして鬪ひを挑んでゐるらしいのだ。 いくら騎士を名乘…