TPPは自由貿易か

小林よしのり『ゴーマニズム宣言スペシャル 反TPP論』(幻冬舎、二〇一二年)を讀んだ。經濟學的には滅茶苦茶な内容である。企業の内部留保が成長維持に缺かせない投資に使はれることを理解せず「全く一般労働者に還元されていない」(15頁)などと日本共産…

【飜譯】金と經濟的自由(グリーンスパン)

筆者:アラン・グリーンスパン (一九六六年、ニュースレター「客觀主義者(Objectivist)」掲載。アイン・ランド『資本主義――知られざる理念』〔未邦譯〕に再録。飜譯元の文章はウェブサイト321goldより) 金本位制に對するほとんどヒステリーじみた敵意は…

社會主義者ケインズ

ケインズの主著『一般理論』が山形浩生の新譯(正式な邦題は『雇用、利子、お金の一般理論』)で講談社学術文庫に入つた。すでに電子版もインターネットで公開されてゐるが、同時に手頃な紙の本として讀めるやうになつたのは、世界が財政金融危機に襲はれて…

不徹底な自由の擁護――池田信夫・藤沢数希の原發本

福島原發事故一年を前に、池田信夫、藤沢数希といふ二人の著名ブロガーが相次いで原子力發電に關する本を上梓した。いづれも基本的には原發を含む電力の自由化を唱へてをり、その限りにおいて評價できる。しかし仔細にみると、肝腎な部分で政府の關與を許容…

【飜譯】通貨安はユーロ圈を救ふか(ショスタク)

筆者:フランク・ショスタク (2012年2月9日、ミーゼス研究所デイリー・コラムより〔原文はこちら〕) ニューヨーク大學の經濟學教授、ヌリエル・ルービニは2012年1月25日、スイスのダヴォスで發言し、〔金融・財政の〕緊縮政策はユーロ圈の景氣後退を惡化さ…

『新ナニワ金融道』と惡法の問ひ

『ナニワ金融道』のマンガ家、青木雄二が死去して今年で九年になる。青木が副業のエッセイなどでマルクスや共産主義を持ち上げるのには辟易したが、本業の『ナニワ金融道』はそんな政治的イデオロギーを感じさせず、貸金業の裏面を生々しく描いて文句なしに…

私作る人、僕奪ふ人(F・オッペンハイマー)

人間が生きるために必要な富を手に入れ、欲望を滿足させるには、根本的に對立する二つの手段がある。それは勞働と掠奪である。つまり自分で骨を折つて働くか、それとも他人が働いて得た成果を力づくで奪ひ取るかだ。掠奪とか力づくで奪ひ取るとかいふと、犯…

相場觀と正義感の物語――『世紀の空売り』

マイケル・ルイスの新刊『ブーメラン』がベストセラーになつてゐる。それに刺戟されてか、二年前に出た前著『世紀の空売り』(東江一紀譯、文藝春秋)がまた賣れ始めてゐるやうだ。『ブーメラン』も面白さうなのでいづれ讀んで感想を書きたいが、この機會に…

【飜譯】リバタリアンの戰爭理論(ロスバード)

マレー・ロスバード (2011年5月16日、ミーゼス研究所デイリー・コラムより。The Myth of National Defense 〔『國防の神話』、2003年、未邦譯〕より拔粹) リバタリアン運動は、現代の主要な問題に立ち向かふうへで「戰略的知性」を利用できてゐないと、ウ…

『刑事コロンボ』はなぜ(リバタリアンにも)面白いか

主演のピーター・フォークが昨年死去したのをきつかけに、テレビドラマ『刑事コロンボ』の「舊シリーズ」全四十五話をレンタルDVDで半年ほどかけて觀た。子供の頃NHKでよく觀たが、すべて觀たのはこれが初めてだ。話によつて多少の出來不出來はあるものの、…

【飜譯】ハリー・トルーマンと原爆(ライコ)

ラルフ・ライコ (2010年11月24日) Harry Truman and the Atomic Bomb - Ralph Raico - Mises Dailyハリー・トルーマンの米大統領任期中もつとも鮮烈な出來事は、決して忘れられることはないだらうし、トルーマンの名と永遠に切り離せないだらう。すなはち…

經濟學に數學はいらない

「文系人間」の私は大學受驗を最後に、數學とほとんど縁のない生活を送つてゐるが、數學とは不思議で美しいものだといふ氣持ちはある。たとへばオイラーの等式だ。一見何の關係もなささうにみえる圓周率、對數、虚數がじつは相互につながつてをり、その關係…

『資本論』は砂上の樓閣

「日経BPクラシックス」から、マルクス『資本論』が中山元氏の新譯で刊行され始めた。賣り物のひとつとなつてゐるのは、これまで「剰余価値」と譯されてゐた語を「増殖価値」と改めたことだ。「訳者あとがき」によると、「Mehrwert の Mehr は、たんなる剰余…

【飜譯】米聯銀はどのやうに第一次大戰の戰費調達を助けたか(コーニング)

ジョン・ポール・コーニング (2009年11月19日) How the Fed Helped Pay for World War I - John Paul Koning - Mises Daily 政府が買物の支拂ひをする方法は三通りある。課税、借金、インフレーション(貨幣量の膨脹)だ。國民がふつう意識するのは最初の…

2011年人氣記事ベストテン

2011年によくアクセスされた記事ベストテンです。お讀みいただきどうもありがたうございました。 ハイパーインフレはあり得ないか――『日本が破綻しない10の根拠』を斬る(3) 自分の人生を生きよ(ジョブズ) 「政府の資産」は誰の資産か――『日本が破綻しない1…

「『小さな政府』を語ろう」で記事公開

古典的自由主義者が集ふ共同ブログ「『小さな政府』を語ろう」で、記事「『資本論』は砂上の樓閣」を公開しました。今囘からこの共同ブログに參加しました。ぜひご覽ください。

FMFJで記事公開

Free Market Forum Japan に飜譯「米聯銀はどのやうに第一次大戰の戰費調達を助けたか」を掲載しました。FMFJはリバタリアン有志で共同運營するサイトです。まだ始まつたばかりですが、興味のある方はぜひご覽ください。

貿易協定はいらない

あけましておめでたうございます。今年もラディカルに頑張る所存です。どうぞよろしく。 昨年11月、政府が環太平洋經濟連携協定(TPP)交渉參加を表明し、同協定への關心があらためて高まつてゐる。本屋の經濟書コーナーをのぞくと、一年近く前に刊行された…

南北戰爭の虚像と實像

日本のメディアではほとんど話題にされないけれども、今年はアメリカ南北戰爭(1861-65年)開戰百五十周年の節目にあたる。アメリカでは終戰百五十周年までの五年間、數々の講演、展覽會、シンポジウムが豫定されてゐるといふ。南北戰爭は兩軍あはせて六十二…

闇金融は惡くない

真鍋昌平のマンガ『闇金ウシジマくん』の最新刊、第23卷(小学館、2011年)で中心人物となる高田は、丑嶋社長率ゐる闇金融業「カウカウファイナンス」に勤める前、ホストクラブでホストとして働いてゐた。ホストをやめたきつかけは、客の一人だつた未成年の…

理論武裝にスキあり――藤沢数希『日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門』

ブログ「金融日記」で知られる藤沢数希氏の新刊『日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門――もう代案はありません』(ダイヤモンド社、2011年)は好著だ。おそらく最近出版された日本人著者による經濟本のなかで、これほど徹底して市場經濟・…

サンデル教授、やつぱりヘンですよ

昨年のベストセラー、マイケル・サンデル『これからの「正義」の話をしよう』(鬼澤忍譯、早川書房)が早くも文庫本になつた。單行本が出たときに一度この本については批判を書いたが、文庫本には特別附録として、來春刊行豫定といふ最新作 What Money Can't…

差別ですが、それが何か?

はるな檸檬のマンガ『ZUCCAxZUCA(ヅッカヅカ)』(講談社)の第2卷が出た。熱狂的な寶塚歌劇團ファン、いはゆる「ヅカヲタ」たちのしあはせな日常を描いて爆笑を誘ふこと、他の追隨を許さない。いや、追隨も何も、寶塚ファンのことばかり描いたマンガなど、…

呉智英さんに會ふ

昨日(11月19日)、呉智英先生にお會ひした。大學生だつた二十七年前、文化祭で講演を聽いて以來、お目にかかるのは初めてである。親しくお話しすることもでき、すばらしいひとときを過ごすことができた。今囘は、呉先生を講師とする名古屋の名言塾、東京の…

リバタリアンは決定論を否定するか

映畫『アジャストメント』(ジョージ・ノルフィ監督、2011年)をレンタルで觀る前にユーザーレビューを眺めてゐたら、かう書かれてゐた。「運命は実はそれなりに決まっていて、それを逸脱しようとすると、『神の見えざる手』が働きますよと。それに対して、…

松本清張「西郷札」――通貨強制がもたらす悲劇

肩のこらない短い物語が讀みたくなつて、光文社文庫の『松本清張短編全集』第一卷を買つてきた。冒頭に收められたのは昭和二十六年のデビュー作「西郷札」である。松本清張といへば推理物だから、歴史物らしいこの作品はこれまで敬遠してゐたが、せつかくな…

『新オーストリア学派とその論敵』

ホメロスの敍事詩『オデュッセイア』は英語でOdyssey(オデッセイ)だが、小文字のodysseyになると「長い放浪」「遍歴」といふ意味の普通名詞として使はれる。日本の經濟學者で、越後和典氏ほどこの言葉に似つかはしい知的人生を送つてきた人はゐないだらう。…

追剥よりも惡い奴ら(スプーナー)

追剥(おいはぎ)は強盗であること以外を装ったりしない。〔略〕人々をただ「保護する」ことができるよう、その意思に反して金銭を取り上げるのだと称するほど、厚顔ではない。彼は、そのような公言を行うには良識がありすぎるのだ。 ライサンダー・スプーナ…

國家は教育から手を引け(W・フンボルト)

人間の真の目的は〔略〕人間の持つ諸力を最高にしかも最も調和のとれた一つの全体へと陶冶することである。この陶冶の為に自由は、第一の不可欠な条件である。 ヴィルヘルム・フォン・フンボルト『国家活動の限界を確定せんがための試論』より。保守系の「新…

自分の人生を生きよ(ジョブズ)

だれも死にたくはない。天国へ行きたいと願う人々も、そのために死のうとは思わない。けれども、死はだれもが最後に行き着く場所だ。逃れた者はいない。〔略〕時間は限られている。だから無駄にしてはならない。他人の人生を生きてはならない。定説にとらわ…