民主主義をあがめるな(サムナー)

悪徳や激怒が特定の階級だけのものだとか、自由とは貴族や聖職者から権力を奪い取って、それを職人や農夫に与えることのみにあるとか、職人や農夫なら権力を濫用することはないとか考えるのは、何という愚劣でしょう! ウィリアム・グラハム・サムナー「忘れ…

軍事同盟はいらない(ワシントン)

優れた外交方針は、諸外国との通商や貿易を広げながら、できる限り政治的なつながりを持たないことである。 ジョージ・ワシントン「告別演説」(Farewell Address)より。ロン・ポール『他人のカネで生きているアメリカ人に告ぐ』(佐藤研一朗譯、成甲書房、…

不健全な銀行を助けるな(バジョット)

銀行の経営が不健全であれば、今後ともその状態が続くことはたしかであり、政府がそのような銀行を維持・支援すれば、いっそう経営の不健全化が進むだろう。もっとも重要な原則は、現在経営が不健全な銀行に対する援助は、将来の健全な銀行の成立を必ず妨げ…

商業は偏見を癒す(モンテスキュー)

商業は破壊的な偏見を癒(いや)す。そして、習俗が穏やかなところではどこでも商業が存在しているというのがほとんど一般的な原則である。また商業が存在するところではどこでも、穏やかな習俗が存在するというのもそうである。 モンテスキュー『法の精神』…

タイトル變更

ブログのタイトルを「自由の騎士が行く」から「ラディカルな經濟學」に變更しました。今後もどうぞよろしく。

ハゲタカに氣をつけろ(J・S・ミル)

社会には無数の禿鷹(ハゲタカ)がいるので、弱い立場の人が襲われないようにするには、とりわけ強い猛禽(もうきん)がいて、禿鷹を押さえつける役割を担っていなければならない。だが、禿鷹の王もやはり禿鷹であり、弱いものを餌食にしようとすることに変…

『日本人として読んでおきたい保守の名著』

潮匡人『日本人として読んでおきたい保守の名著』(PHP新書、2011年)カバー見返しの内容紹介にかうある。 「ネット保守」という言葉に代表されるように、若い世代で「保守」を自認する人が増えている。しかし、保守層にも日米・日中の外交関係から、TPP参加…

『老子』

『老子』(小川環樹譯註、中公文庫、1973年)戰勝のしらせが屆けば、銃後の國民は花火を上げ、旗行列をして喜ぶ。凱旋將軍は群衆の歡呼と小旗の波に包まれ、盛大な出迎へを受ける。洋の東西を問はず、どこにでも見られる光景だらう。戰爭に勝てば、それを祝…

『原爆投下決断の内幕』

ガー・アルペロビッツ『原爆投下決断の内幕――悲劇のヒロシマ・ナガサキ』(上下、鈴木俊彦他譯、ほるぷ出版、1995年)原爆投下決断の内幕〈上〉―悲劇のヒロシマナガサキ作者: ガーアルペロビッツ,Gar Alperovitz,鈴木俊彦,米山裕子,岩本正恵出版社/メーカー:…

『デフレの正体』

藻谷浩介『デフレの正体――経済は「人口の波」で動く』(角川oneテーマ21、2010年)著者紹介欄によると、藻谷氏は「平成合併前の約3200市町村の99.9%、海外59ヶ国を概ね私費で訪問した経験を持つ」といい、現場で得た豐富な情報を賣り物にしてゐるやうだ。ま…

『マネー避難』

藤巻健史『マネー避難――危険な銀行預金から撤退せよ!』(幻冬舎、2011年)本書には日本の財政問題への嚴しい認識をはじめ、賛同できる部分も少なくない。しかし「円安になれば、今の日本にあるほとんどの問題が解決するのです」(209頁)といふ圓安信仰がす…

『原発のウソ』

小出裕章『原発のウソ』(扶桑社新書、2011年)福島原發事故の發生以來、「原發事故が起こつたのは市場原理主義のせゐ」といふ非難をウェブで時々目にする。「それは間違ひだ」と市場原理主義者である私が言つても信じてもらへないだらうから、次の文章を讀…

『古典で読み解く現代経済』

池田信夫『古典で読み解く現代経済』(PHPビジネス新書、2011年)著者池田氏は「日本で自由主義を根づかせる努力が必要」(p.135)と述べ、自由主義的經濟學者であるハイエクやフリードマンを好意的に取り上げてはゐる。しかしそれだけに、自由主義とは對極…

『図説 ハプスブルク帝国』

加藤雅彦『図説 ハプスブルク帝国』(河出書房新社、1995年)民族自決、國民國家、民主主義。これらはそれほどすばらしいものなのか。ハプスブルク帝國の歴史を知るにつれ、疑問がつのる。ハンガリー生まれの歴史家、フランソワ・フェイトはかう主張してゐる…

『競争の作法』

齊藤誠『競争の作法――いかに働き、投資するか』(ちくま新書、2010年)デフレ脅威論をデータで反駁する第1章は、おもしろい。2002年から2009年まで消費者物價指數はほぼ横ばいだつた。2009年は前年比1.4%低下で、1971年以降最大の下げ幅を記録したと騒がれ…

『大災害から復活する日本』

副島隆彦『大災害から復活する日本』(徳間書店、2011年)副島氏の本は何册も讀んでゐるので、たいていのことには驚かない。福島第一原發事故について「もうどの原子炉も爆発することはない。安心してください」(p.14)などと斷言してゐるのはさすがにどう…

『「通貨」を知れば世界が読める』

浜矩子『「通貨」を知れば世界が読める――"1ドル50円時代"は何をもたらすのか?』(PHPビジネス新書、2011年)世界的な金融危機をきつかけに、通貨への關心が高まつてゐる。21世紀の通貨制度はどうあるべきか。著者浜氏は本書で「通貨体制の三元構図」(p.…

『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論』

荒木飛呂彦『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論』(集英社新書、2011年)人氣マンガ家である著者の本だから、お氣に入りの作品をただ羅列し、紹介する駄本であつても、賣れたことだらう。しかし本書はそのやうないい加減な本ではない。借り物でない、自前の見…

『経済学革命』

木下栄蔵・三橋貴明『経済学革命――復興債28兆円で日本は大復活!』(彩図社、2011年)著者の一人である三橋氏はケインズ經濟學のデタラメを戲畫的に體現するネットのカリスマとして知られるが、相方の木下氏はそれをしのぐスケールのでかい人物だ。工學博士…

『アナーキズム』

忙しさにかまけて三カ月以上も放置してしまつた。なかなか時間が取れないので、まとまりのない讀書メモのやうなものを少しづつ書くことにしたい。浅羽通明『アナーキズム――名著でたどる日本思想入門』(ちくま新書、2004年)情報量豐かな本だが、アナキズム…

呉智英知事の失敗

名古屋に住んでゐた四年前に書いた文章の再掲です。河村たかし旋風で全國的に注目された今年の統一地方選の話ではありませんので、ご注意を。 ☆愛知縣民以外は誰も知らないと思ふが、来月、愛知縣知事選がある。地元の新聞各紙は關聨記事を連日掲載してゐる…

呉智英氏の思ひ出(8)手紙

スイスに來て二年目、すなはち1999年の新春である。仕事や生活がやうやく落着いたのを機に、勇を鼓し、私は呉氏に初めて手紙を書いた。宛先は、呉氏の著作を多く出してゐる双葉社編輯部氣附である。永年の愛讀者であること、「噂の眞相」への投稿を著作で紹…

呉智英氏の思ひ出(7)疑義

1998年頃だつたと思ふ。呉氏は、保守派論客によるシンポジウム(「新しい教科書をつくる会」關係だつたかもしれぬ)にゲストとして招かれた席上、「私は天皇制廢止論者である」と發言し、物議を釀した。激しい左翼批判で知られた呉氏の「反天皇發言」は、言…

呉智英氏の思ひ出(6)豫兆

これまで鏤々述べたやうに、私は呉智英氏の永年の讀者である。ひところは、單行本のみならず、呉氏の文章が載つてゐさうな雜誌を書店で片端から物色したものである。現在は廢刊となつたNHK出版の月刊雜誌「Be-Common」を都内の書店でふと立ち讀みしたら、…

呉智英氏の思ひ出(5)反論

岡庭昇氏は私と保坂氏との投稿に對し、次號3月号の投書欄で早速反論してきた。「汚れ切つた政治的動物どもに」といふ凄まじい題名である。私にたいする批判の部分を引用する。 木村貴氏への質問。あなたは呉智英先生の文章を読んでいないと公言しているが、…

備蓄できない電力だからこそ、市場經濟に任せよう

電力流通關係の勤務經驗をもつ岸田信勝氏が「備蓄できない電力を市場経済に任せてよいのだろうか?」といふ記事を「アゴラ」に寄稿してゐる。技術的智識のない私にとつて勉強になる點はあるけれど、タイトルに集約された全體の趣旨には賛成できない。岸田氏…

呉智英氏の思ひ出(4)投稿

呉智英氏が月刊誌「噂の眞相」にエッセイ「折々のバカ」を一年にわたり連載し始めたのは1986年秋、私は卒業を控へた大學四年生になつてゐた。同年12月號に載つた第三囘は、渡辺和博著『金魂巻』に對する上野昂志氏の論評を俎上に載せ、上野氏及び岡庭昇氏ら…

呉智英氏の思ひ出(3)講演

『封建主義、その論理と情熱』を讀んで數ケ月後、大學の學園祭に呉氏が講演者として招かれることを知り、その偶然に驚いた。呉氏の話を直接聽けるのは非常に嬉しく、ぜひ行かうと思つたが、一つだけ困ることがあつた。當時テレビの深夜番組「オールナイトフ…

呉智英氏の思ひ出(2)熱中

『封建主義…』の後、『インテリ大戰爭』や『大衆食堂の人々』なども讀むうち、すつかりファンになつてしまつた。呉氏の思想が徐々に理解できるやうになつたこともあるが、同じくらゐ魅力に感じたのは文章である。主張は明確、表現は明晰で紛れがない。「逃げ…

呉智英氏の思ひ出(1)邂逅

本日から掲載する「呉智英氏の思ひ出」は、十一年前に公開した文章の再掲です。 ☆九州から上京し、大學に通ひ始めて間もないころだつた。國分寺驛前の本屋で何か面白さうな本はないかと物色してゐると、題字の背景が赤で、虎と竹林と黒い兜の武士(恐らく加…